ハピラインふくい10年後の累積赤字は70億円 厳しい経営、経費減…第三セクター鉄道会社の自立への道

先行する並行在来線の3セク鉄道会社
【グラフィックレコード】自立への道

 新幹線開業と同時にJRから並行在来線として分離された第三セクター鉄道は全国に8社ある。人口減少や道路網の発達に、新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけ、どこも経営は苦しい。

 2015年の北陸新幹線長野―金沢開業に伴い誕生したあいの風とやま鉄道(富山県)は、コロナ禍前の19年度までの利用状況は好調で、運賃収入は当初計画を上回った。しかし、本業のもうけを示す営業損益は赤字。行政の補助で最終黒字を確保していた。沿線人口が多く、経営環境としては恵まれているIRいしかわ鉄道(石川県)ですら、運行距離が伸びる来春以降は収支均衡のため運賃を引き上げる。

 福井県のハピラインふくいが経営計画で示す将来展望も決して明るくはない。人口減少、少子高齢化の中、コロナ禍前の水準である1日2万人の乗客を維持し、普通運賃を現行比1.15倍(開業6年目以降は1.20倍)に引き上げてもなお、開業10年後の累積赤字が70億円に上る見通し。県と沿線市町が50%ずつ拠出した基金から補てんする計画だ。

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 厳しい経営環境が予想される中、福井県は手をこまねいてきたわけではない。車両やレール、駅舎など鉄道資産に関するJR西日本との譲渡価格交渉は、初期投資を抑えるため激しいやりとりとなった。

 JR西が保有する予定だった福井駅高架下の駐車場と商業施設(旧プリズム福井)の用地については、賃借料収入が年1億円見込まれるため、県が並行在来線運営会社の収入源になるとして粘り強く交渉し、取得にこぎ着けた。JR西が商業施設がある高架下の用地を並行在来線運営会社に譲渡するのは初めてだった。

 県は鉄道資産台帳の開示を求め、1万数千件に及ぶデータをチェック、不要なものがないか厳しく目を光らせた。県地域鉄道課の坂下正人課長は「しつこく問い合わせるものだから最後はJRも音を上げていた」と苦笑いし「譲渡額を決める上でプレッシャーになったのでは」と振り返る。結果的に、鉄道資産の取得価格70億円は運行区間1キロあたりに換算すると石川県や富山県に比べて抑えることができた。

 開業後のコスト削減に向けては、えちぜん鉄道、福井鉄道との連携もポイントの一つだ。両社は20年度から資材の共同調達や工事の一括発注に取り組み、1社単独による調達や発注に比べて約5%の経費削減につなげている。来春以降は2社の連携にハピラインふくいが加わる予定だ。各社は列車や設備、社員の賃金水準などに違いがあるため、一足飛びに統合とはいかない。当面は緩やかな連携で効率化を図る方針だ。

 収入源の多角化も視野に入れる。「パークアンドライド推進の一環で駅周辺の遊休地を駐車場にして料金を得たり、駅構内の広告掲示で収入を増やしたり、さまざまな手を打っていく」。9月、車両デザインの発表会見に臨んだハピラインの小川俊昭社長は、運賃収入以外の売り上げで収益改善を図る姿勢を強調した。

 ハピラインふくいにとっては、JR貨物から支払われる線路使用料も収入の大きな柱だ。ハピラインの便数を増やすと、貨物列車の割合が減るため「乗客の利便性を高めるほど収入が減る。改めてもらわないといけない」(杉本達治知事)。全国の並行在来線運営会社と足並みをそろえ、貨物調整金制度の見直しを国に働きかけていく方針だ。

⇒記者のつぶやき「車依存からの脱却」を読む

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 来年3月の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。の第5章テーマは「ハピラインにバトン」。新幹線開業後、JR北陸線を引き継ぐ第三セクター「ハピラインふくい」の展望や課題を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン・各章一覧

【第1章】福井の立ち位置…県外出身者らの目から福井の強み、弱みを考察

【第2章】変わるかも福井…新幹線開業が福井に及ぼす影響に迫る

【第3章】新幹線が来たまち…福井県外の駅周辺のまちづくりなどをリポート

【第4章】駅を降りてから…観光地へどう足を運んでもらう?

【最新・第5章】ハピラインにバトン…JR北陸線を引き継ぐ第3セクターの展望、課題は?

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