「ベース・オン・トップ」(1957年、ブルーノートレーベル) 弓弾きで圧倒的な表現力 平戸祐介のJAZZ COMBO・32

「ベース・オン・トップ」のジャケット写真

 今回はマイルス・デイビスとの共演をはじめ、1950年代当時のジャズ界で引く手あまたの大活躍を果たしたベーシスト、ポール・チェンバースが57年、名門ブルーノートレーベルへ録音した歴史的名盤「ベース・オン・トップ」をご紹介したいと思います。
 ポールは天才かたぎのベーシストで10代の頃から既に音楽的才能を開花させました。シーンにさっそうと登場した54年から瞬く間にジャズ界でも堅実な新進ベーシストとして人気を博していました。
 前述のマイルスを筆頭に、ソニー・ロリンズ、バド・パウエル、ジョン・コルトレーンといった先鋭的なアーティストらとも共演を重ねることで、自身の音楽性も早い段階で熟成。ベーシストとして生命線であるタイム感やグルーヴ感においても圧倒的な存在感を発揮しました。そんなポールと誰しも共演したかったのでしょう。ポールが参加した作品は69年に34歳という若さで亡くなる前年までの14年間で400枚近くの作品に参加しています。これは本当に驚愕(きょうがく)の数字です。
 生涯を通じ多忙を極めたポールがその合間を縫って制作したのがこの盤です。多忙だからといって作品のレベルが落ちるわけもなく、ポールの無尽蔵の創造力には脱帽します。アルバム冒頭の「Yesterday」でポールの専売特許の一つである弓弾きでの圧倒的な表現力を披露します。当時のジャズベース界で弓弾きができるアーティストはまだ数多くいなかったのでポールのサウンドそのものが最先端だったと思われます。
 この盤の脇を固めるギターのケニー・バレル、ピアノのハンク・ジョーンズの二人がいぶし銀の活躍を見せてくれています。元来、周りのアーティストを引き立てることにたけた二人ですが、この盤における活躍はジャズ史に残る名演の一つだと思います。
 この作品は現代においてもジャズベースを志す人たちにとってのバイブルとなっている作品で、避けては通れません。驚愕の弓弾きに輪をかけて正確無比なピチカート(指弾き)は珠玉の音色が聞けます。これぞ、ジャズベースの王道ですね。
 非常に残念なのは、ポールが一生涯を通し自分自身の健康を顧みてくれなかったことに尽きます。大量の飲酒、強烈なドラッグの使用でその命を大幅に縮めてしまいました。もっと長生きしてくれていたら現代のジャズベース界の発展は相当なものになっていたでしょう。
 今年もたくさんのジャズレジェンドたちが天に召されました。今回の作品も含め、一つ一つを丁寧に掘り下げて聞いてみたい、そんな季節になってきました。(ジャズピアニスト、長崎市出身)

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