長崎の“ボロ物件” 不動産投資家が600戸再生 秘訣は同市特有の坂や階段立地 空き家対策に一役

おしゃれに仕上げた天井について説明する脇田氏(左)と、脇田氏の元で働く山﨑龍大氏=長崎市川上町

 人口減少に伴い全国の自治体が頭を抱える空き家問題。放置すれば治安の悪化につながる可能性もある。そうした中、長崎市ではある不動産投資家が約15年で約600戸の“ボロ物件”をリフォームして再生させた。秘訣(ひけつ)は坂や階段が多い同市特有の立地にあった。
 長崎市川上町の斜面地に立つリフォーム途中の平屋住宅(4DK)。「天井部分を解体したら鉄骨風のきれいな梁(はり)が出てきて、塗装して見えるようにしたらかっこいいんじゃないかと思って」。不動産投資家の脇田雄太氏(46)はおしゃれに仕上げた天井を指さしながら説明した。築約50年の古物件。いくつもの不動産業者に取り扱いを断られ、脇田氏の元に話が舞い込んだ。当初、室内には窓のすき間からツタが入り込み、床には草がたまっていた。土地建物15万円で売買が成立し、リフォーム費用は約400万円。家賃5万円前後で貸し出す予定という。
 脇田氏は大阪市出身。会社員だった28歳のころ、同市内に自宅を建設。間取りなどを自ら描いて工務店側に提案し、住宅をデザインする面白さに魅せられた。以来、中古物件を探しリフォームするようになった。
 だが都会やその周辺は取引価格が高く、資金が続かない。不動産関連サイトで安い物件を検索すると、長崎市の“ボロ物件”がいくつも見つかった。車が通れる道がなく階段を上ったエリア(階段立地)にあるため買い手が付かない。不動産業者も仲介手数料が安い上に売却後のクレームを懸念して扱いたがらない。

 ◎ビジネスチャンス

 一方、脇田氏はそこにビジネスチャンスを見いだし同市内の物件を購入。31歳で会社を辞め、リフォームした賃貸物件を扱う専業大家になった。脇田氏によると、単に物件価格が安ければ良いわけではない。適切にリフォームすれば入居者が決まるという「賃貸需要のある地域性が重要」と強調する。
 「リフォームが中途半端だと入居後にクレームが出て、修繕を繰り返して割高になり、信用も失う。それならば水回り、電気配線、内装、耐震補強、風呂・トイレ改修など最初にしっかりリフォームした方が良い」と脇田氏。これまでに失敗を繰り返しながら階段立地のリフォームのノウハウを身に付け、資材を安く仕入れるルートも確立。信頼できる職人とチームを組んでいる。
 さらに「通常は階段立地より平地が好まれるが、長崎市は坂のまちなのでそもそも平地の物件が少ない。階段立地に耐性のある人が他都市より多いと思われ、少し階段を歩くが平地より家賃が5千円、1万円安いならと、階段立地を選ぶ人は少なくない」と言う。駐車場も物件そばに確保する。

 ◎既存ストック活用

 現在、脇田氏の賃貸物件は約100戸。リフォーム前の物件も約100戸所有する。さらに全国の投資家が脇田氏を頼りに購入・リフォームし、脇田氏に管理を委託する物件が約500戸。入居率は9割超に達し、20代、30代の子育て世代が多いという。
 総務省の住宅・土地統計調査(推計)によると、2018年の長崎市の空き家は総住宅数の15.4%(全国13.6%)の3万3900戸で、5年前の13年調査からほぼ横ばい。だが▽転勤・入院などで長期間不在▽建て替えのため取り壊し予定-などの空き家は5年前から2300戸増の1万5270戸。放置すれば倒壊の危険性や衛生上の問題が生じる恐れがある。
 近年、同市内では斜面地から平地に移住する傾向が見られ、同市も民間と連携して子育て世帯向けに平地の賃貸住宅供給に力を入れる。脇田氏は「斜面地の全員が平地に移るのは困難。斜面地に既存ストック(空き家)があるので活用しない手はない。物件購入やリフォーム費用などへの融資に政府や自治体が信用保証を付ければ投資家もお金を借りやすく、空き家再生が加速するだろう」と話す。

リフォーム前の室内。窓のすき間からツタが入り込み、枯れ草が床にたまっている=2022年9月撮影(脇田雄太事務所提供)

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