「米軍の秘密主義の壁を突破した」 米の環境報道賞で本紙サイト評価集まる ジョン・ミッチェル特約通信員の報道 PFAS記事など5本評価

 沖縄タイムス社の英語サイト「ジョン・ミッチェル・インベスティゲーツ(調査報道)」が、世界最大の環境報道賞で部門3位に選ばれた。ジョン・ミッチェル特約通信員の記事5本に、「米軍の秘密主義の壁を突破した」と評価が集まった。基地問題への国際的な関心を高めようと本紙が開設したサイトが成果を挙げた。

 賞は米国の環境ジャーナリスト協会が主催する環境報道賞で、本紙は優秀専門報道(大組織)部門3位に入った。今年は10部門に過去最多の589件の応募があった。

 本紙が応募した記事の一つは、嘉手納基地周辺の有機フッ素化合物PFAS(ピーファス)汚染を巡り、同基地が自ら汚染源である「可能性が高い」と内部のメールで認めていたと報じた。米軍は対外的には今も汚染の責任や基地内調査を否定している。

 別の記事では、2017年に米軍ヘリが不時着炎上した東村高江の民間地が、強い放射線やPFASで汚染されていたことを明らかにした。米軍は「健康被害を引き起こす量ではない」とだけ発表し、地主にも調査結果を伝えていなかった。

 県民だけでなく米軍関係者の健康が脅かされている危険も発信している。米軍がキャンプ・キンザー(牧港補給地区)で深刻な土壌汚染を把握しながら内部でも周知していない問題では、情報開示で入手した報告書全文も公開した。

 米退役軍人省が、少なくとも21人の退役軍人が沖縄の基地で枯れ葉剤に触れて健康を害したと認定し、補償金を払っていることも報じた。国防総省は枯れ葉剤の沖縄持ち込みを公式には否定している。

 環境汚染に関する独自取材の蓄積を地図や動きのある年表で一覧できるようにした記事も評価された。

 英語サイトは2022年7月に開設し、現時点で22本の記事を公開している。QRコードから閲覧できる。

[選評] 報道が政府動かした

 米軍による環境汚染を巡るジョン・ミッチェル記者の報道は、沖縄の悲しむべき過去と進行中の問題を記録している。米軍は環境と人々への悪影響をほとんど明らかにしてこなかった。報道が日本政府や地元自治体を動かし、調査につながった。

 沖縄には31の米軍基地がある。ミッチェル記者は毎回、何カ月もかけて米軍の秘密主義の壁を突破している。その結果として、飲料水汚染、米軍ヘリが不時着炎上した民間地のPFASや放射性物質汚染、発がん性物質による基地内学校周辺の汚染など、多くの問題が明らかになった。

 記事のほかにも表や写真、動きのある年表を活用し、ジャーナリズムが社会の助けになる方法を示した。

■沖縄の環境問題 世界の目 ジョン・ミッチェル特約通信員

 受賞は非常に光栄だ。国際社会がPFAS汚染をはじめとする沖縄の環境問題を注視していること、環境正義を求める沖縄の闘いが孤立していないことを、沖縄の人々に示してくれた。

 環境の専門家である審査員たちが、沖縄の環境汚染を深刻に受け止めている。世界に実態が伝わることは、早期の状況改善への一歩となる。米軍も、世界が監視していることを理解するだろう。さらなる汚染を抑止し、説明責任を果たすよう促す効果を望んでいる。

 世界的には小さい沖縄タイムスが、米大手紙のニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズを抑えて受賞した。本紙が実践するジャーナリズムの水準の高さを示している。

 英語サイトは米軍駐留に伴う悪影響を世界に発信することを目的に開設した。数十年にわたって汚染にさらされてきた米軍構成員や家族も情報を遮断されており、サイトの記事が米政府からの補償獲得を後押しするよう願っている。

 受賞を励みに、今後も同僚と力を合わせて、隠された実態を明らかにしていきたい。

■ウェブで理解の手助けに 儀武勝希(デジタル編集部)

 沖縄タイムス+プラスの配信を担うデジタル編集部の一員として、ウェブサイトが世界的な環境報道賞で評価されたことは、率直にうれしい。

 英文記事を公開するに当たって、ミッチェル記者から県内の環境汚染に関する年表を掲載したいと依頼があった。新聞であれば1枚の画像にまとめるところだが、ウェブサイトに掲載するので、動きを加え目を引く作りにした。

 さらにミッチェル記者は、自身が作成したウェブ地図も提供してくれた。県内各地で米軍に関係する環境汚染事故が発生していることが、ひと目で分かる。

 それぞれウェブならではの表現で、環境汚染への理解を助ける材料になったのではないだろうか。

 命や健康にまつわる問題は、紙やウェブを問わず伝えたい重要な情報だ。分かりやすいページを作成することで、読者の参考になる記事を届けられるよう、これからも努力を続けたい。

本紙に贈られた環境報道賞部門3位のバナー
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ジョン・ミッチェル特約通信員
儀武勝希

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