便利さに潜むリスクに警戒を怠ってはならない。
クレジットカードの不正利用が急拡大している。業界団体の集計で昨年1年間の被害総額が436億円に上った。前年比1.3倍の大幅増加で、統計を取り始めた1997年以降の最悪を更新した。
他人のカード情報の盗用による被害が9割超で、偽サイトでだまし取るほか、本物の通販サイトの弱点を突いて盗む新たな手口も脅威となっている。
デジタル社会の基盤である信用を揺るがす事態だ。関連業界と利用者の双方でセキュリティー対策の強化が急務である。
盗用の手口は、メールなどから偽サイトに誘導する「フィッシング」が大半とみられている。入力させたカード番号や有効期限などの情報をだまし取り、本人になりすまして使用する。
新たに問題化しているのは、正規の販売サイトから盗む手口だ。
京都府警などは今週、ミュージシャンの公式サイトにあるオンライン決済ページに不正なプログラムを仕組み、通販の利用者3人のカード情報を盗み取った容疑で、埼玉県内の26歳男を逮捕した。「ウェブスキミング」と呼ばれ、摘発は全国初とみられる。
公式サイトで通常の手順で買い物をしただけで、知らぬ間に情報を盗まれてしまう。警察担当者は「利用者が不正に気付くことは非常に困難」といい、自分で防ぎようがないのは深刻だ。不正プログラムと被害状況の把握と分析、監視の強化が急がれる。
さらに昨年、カードの決済代行会社が不正アクセスを受けて約46万件が情報流出するなど、サイバー攻撃の被害も後を絶たない。
各サイトのシステムの脆弱(ぜいじゃく)性が狙われており、各事業者が安全対策を点検し、不断に更新していかねばならない。
経済産業省によると、クレジット利用をはじめ昨年のキャッシュレス決済額は前年比16兆円増の約111兆円で、初めて100兆円台に乗った。消費全体で現金以外の決済は36%と最高を更新し、暮らしに欠かせなくなっている。
消費者はリスクにどう対処すればいいのか。専門家は、クレジットの利用明細をこまめに点検し、不審点がないかを確認することが重要という。使わないカードを解約することも予防策になる。
安心して使える情報セキュリティー環境を向上させなければ、官民が進めるデジタル化の妨げとなることを忘れてはなるまい。