東近江市長の「フリースクール否定」発言 「子どものために」隣の市の25歳は動いた

子どもに勉強を教える「Since」の麻生さん(近江八幡市安土町)

 JR安土駅(滋賀県近江八幡市安土町)近くの一軒家に子どもたちのにぎやかな声が響く。フリースクール「Since(シンス)」。麻生知宏さん(25)は、運営する同名のNPO法人で代表理事を務めている。フリースクールの存在を否定する東近江市長の発言があってからは、子どもたちを守るために先頭に立って行動し、世間の注目を集めるようになった。

 原点は、中学2年の冬から1年ほど経験した不登校にある。学校で「周囲の望む自分を演じる」のが次第にしんどくなり、学校に行けなくなった。周囲との関わりを絶つように押し入れにこもり、悶々(もんもん)とする日々を過ごした。

 それでも、文句も言わずに普段通り接してくれた両親を見て「あるがままの自分を肯定してくれている」と思えるようになった。過ぎゆく時間も心を癒やしてくれた。

 京都府内の高校を出た後、不登校について深く学ぼうと滋賀大学教育学部に進学した。そこで出会った仲間たちとともに2021年に設立したのが「Since」だ。

 現在は滋賀県内の小中学生15人が通う。和やかな雰囲気の下、午前中は子どもたちに勉強を教えて、午後からは料理やサッカー、検定試験の勉強などをして一緒に過ごす。「子どもとは対等な立場で接し、子どもがありのままでいられる居場所づくりを心がけている」と話す。

 フリースクールと不登校を巡る小椋正清東近江市長の問題発言を報道で知ったのは、発言のあった10月17日。「子どもたちのために、見て見ぬふりはできない」。翌日には、オンライン上で発言撤回を求める署名サイトを立ち上げるなど活動を始めた。

 後に市長は発言を不適切と認めて謝罪した。だが、それで終わりにしたくない。「フリースクールや子どもの居場所について、社会がしっかりと考えるきっかけになってほしい」と訴える。

 「Since」にはものごとの起点を表す「~から」との意味がある。「人生は『七転び八起き』。不登校からの一歩をここから踏みだし、人生を楽しく豊かに生きていってほしい」。そんな願いを持ちながら、子どもたちと接している。

© 株式会社京都新聞社