社説:米中首脳会談 緊張緩和につなげねば

 相互不信を深める米中関係を改善し、緊張の緩和につなげる一歩にしなければならない。

 米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席が1年ぶりに会談した。アジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせた形だが、習氏の訪米は実に6年半ぶりである。

 焦点となっていた両国間の危機管理では、国防当局や軍の高官による対話の再開で合意した。バイデン氏は「競争が衝突に転じないよう管理しなければならない」とし、首脳間のホットライン活用も申し合わせたという。

 軍同士の対話は、昨年8月の米下院議長の台湾訪問に中国が反発し、中断していた。11月に両首脳が会談したが、今年に入り中国の偵察気球が米本土に飛来し、米が撃墜したことで関係が悪化した。

 台湾海峡や南シナ海では、中国の軍艦が米軍艦に異常接近するなど、偶発的な衝突が懸念されていただけに、対話の再開は関係正常化に向けた前進といえる。

 しかし、互いの不信感はくすぶっている。台湾について習氏は会談で「必ず統一する」と述べ、米の武器支援を停止するよう求めた。バイデン氏は来年1月の台湾総統選に中国が介入しないよう警告し、会談後の記者会見では習氏を「独裁者」と呼ぶなど溝が際立った。

 イスラエル軍が侵攻するパレスチナ自治区ガザを巡る問題や、ロシアのウクライナ侵略に関しては、めぼしい成果が発表されなかった。米中のトップは国際秩序を回復させる責務がある。世界経済の安定化にも欠かせない。

 会談では、人工知能(AI)に関する政府間対話の構築、気候変動問題への協力でも合意した。地球規模の課題では協力する知恵と自制を求めたい。

 米国は来年の大統領選を控えて民主、共和両党の対立が強まっている。中国は外相と国防相の解任、不動産不況などによる経済の減速が表面化している。

 前回の米中首脳会談があった1年前と比べて双方の国内情勢が不安定化しており、内政の打開も狙って歩み寄った面もうかがえる。関係改善を進められるかは予断を許さない。

 APECに絡み、岸田文雄首相も習氏と1年ぶりの会談を計画している。東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を巡り、中国に海産物輸入規制の撤廃を求める構えだ。対話による解決の軌道に乗せられるかが問われる。

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