「幼稚園いやや」“香り成分”で体調不良に…化学物質過敏症に悩む人々 身近な日用品が原因になることも

ごくわずかな化学物質で体調が悪くなる化学物質過敏症という病気をご存知でしょうか?特に最近は日用品に含まれる「香料」が原因となるケースが増えています。背景には何があるのか、当事者たちの苦悩を取材しました。

「芳香剤の匂いが苦しかった」幼稚園に通えない…日用品の“香料”で

(母親)
「どの形に何が入ってるか覚えましょう。正解、よくできました」

母親と自宅で勉強するのは愛知県内に暮らす6歳のだいすけくん(仮名)。ある症状に悩まされ幼稚園に通えません。

(母親)
「この日記を知らない間に書いていて」
(だいすけくん)
「きょう歯医者に行った。芳香剤の匂いがきつかった。苦しかった」

柔軟剤や芳香剤などの匂いで体調不良になってしまうのです。

きっかけはことしの冬、一緒に遊んでいた人の衣服からした柔軟剤の匂いに息苦しさを訴え、顔などにじんましんが出るようになりました。さらに…

(母親)
「図書館の本一冊(についた匂い)でも『苦しい』って。私が感じられないものでも『苦しい苦しい』って言うようになっちゃって、この子の体はどうなっちゃったんだろうって」

病院で診断されたのは「化学物質過敏症」という病名でした。

化学物質過敏症は、食品添加物や洗濯の柔軟剤、家の芳香剤などに含まれる化学物質をごくわずかに吸い込んだり触れたりするだけで頭痛や吐き気、けん怠感などさまざまな症状を起こします。

国内に100万人以上の患者がいると推定されていますが、治療法は確立されておらず、こうした化学物質から出来るだけ離れるしか対処法はありません。

(母親)
「きょう1日あした1日どうなっちゃうんだろう。この先どうなっちゃうんだろうっていうことが本当に不安で…」

(母親)「幼稚園楽しかった?」
(だいすけくん)「苦しくなかったときは」
(母親)「また幼稚園行きたい?来週行こっか?」
(だいすけくん)「いやや。行きたくない」

柔軟剤に含まれる大量の”マイクロカプセル”

元は住宅建材に使われる接着剤などが原因として注目された化学物質過敏症ですが、いまは芳香剤や柔軟剤など身近な日用品に含まれる「香料」が原因物質となるケースが増えています。

微細な化学物質について研究する早稲田大学の大河内博教授は、最近柔軟剤で広く使われるようになった「香り成分が長く残る技術」が関係していると考えています。

(早稲田大学 創造理工学部 大河内博教授)
「柔軟剤に一体何が入っているのか、それは企業秘密ですから。色んな香りをつけるというのは企業が色んな調合をしているわけです。症状を訴える方々にとっては極めて不快に感じるものがあるのではないか」

柔軟剤の成分を調べるため洗濯物を部屋干しし、室内を分析したところ、服や床から42万個もの微粒子が検出されたのです。

これはマイクロカプセル。直径わずか6マイクロメートル。プラスチックの膜で香料の成分を包んであり、摩擦などで破れると成分が放出されます。

およそ900種類もの化学物質が入っている柔軟剤。香りが長続きする点が製品の売りですが、逆に化学物質過敏症の人にとっては長い間、原因物質にさらされることになります。

(早稲田大学 創造理工学部 大河内博教授)
「香りを長持ちさせようという技術が化学物質過敏症や香害を引き起こしてしまっている。香りがそこまで必要なのか、というところから議論が必要なんじゃないかなと私自身は思っています」

消費者庁などはことし7月、「その香り 困っている人もいます」と題したポスターを作り、柔軟剤や芳香剤の過剰な利用に注意を促しています。

一方、洗剤メーカーなど業界団体は「安全性は確認されている」とした上で、メーカーが推奨する量を守って適正に使うよう呼びかけています。

ごくわずかでも「息が吸えない」一日中ゴーグルとマスクをつけて生活

治療法が確立されていない化学物質過敏症ですが、病を乗り越え社会復帰した人もいます。愛知県設楽町に住む杉浦篤さん(39)です。

植物の研究者として働いていた11年前に突然、周囲の匂いが気になり始め化学物質過敏症を発症。一日中、ゴーグルと医療用マスクをつけて生活するほど症状は悪化しました。

(杉浦篤さん)
「体の状態として外から見る分には全く症状が出てないんですけども『息が吸えない』『体がしびれて全身が痛い』という状態で、起き上がるのもつらい時期が一番ひどいときにはありました」

充実していた研究職を諦め、試しに田舎に住んでみると体調が回復。自然豊かな設楽町に移住することを決めました。ここで始めたのが…

(杉浦篤さん)
「お茶作りができなくなった畑をお借りして、油を取るための種専用のお茶畑として使わせてもらって」

茶畑が点在する設楽町。研究者時代の知識を生かし、お茶の種からとれる油を調べると肌にいい成分が含まれることが分かりました。

会社を立ち上げ、化学物質過敏症の人でも使える天然のスキンケアオイルを販売しています。私生活でも移住後に出会った女性と結婚し、家族と幸せな生活を送る杉浦さん。周囲の人々の理解もあり、いまはほとんど症状が現れることはないといいます。

(杉浦篤さん)
「病気になったときは一人で苦しくなって、すべてを諦めて移住をしたという形ですけど、いまはそのとき諦めたものを色々と取り戻すことができた。できれば移住ではなく原因を取り除いて、いま苦しんでいる人だけじゃなく、将来病気になる人もできるだけ少ないような社会になってくれたらいいなと思っています」

「小学校に行けるのか…」化学物質過敏症の男児の母の悩み

愛知県に住む化学物質過敏症のだいすけくん(仮名)。大好きだった幼稚園に行けなくなり、人のいない草むらで虫取りをして遊ぶ毎日です。

来年小学校に上がりますが、母親は、ほかの児童がいない特別支援学級に入れることも考えています。

(母親)
「みんながランドセルの話題で盛り上がってる中うちは真っ暗で。来年1年生と言われても見通しが立たず…。もっとたくさんの人に香りで苦しんでいる子がいることに気づいてもらって、みんなが集まる場所では控えてきてくれたら一緒に遊べるんですが」

(母親)
「いっぱいお友達いると苦しくなるでしょ?みんなのいっぱいの部屋じゃなくて1人きりの部屋を…」
(だいすけくん)
「さみしい」

生活をより豊かにするはずの化学物質で、苦しむ人が増えている現実を見ると、暮らし方をいま一度見直す必要があるのかもしれません。

CBCテレビ「チャント!」2023年11月13日放送より

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