ハピラインの「先輩」…しなの鉄道のしたたかな赤字脱却劇 1997年に誕生、全国初の三セク鉄道会社

通勤通学客が経営を支える「しなの鉄道」。朝の時間帯は大勢の人で混雑する=9月28日午前7時半ごろ、長野県上田市の上田駅
【グラフィックレコード】「おらほ」の鉄道

 平日の午前7時29分。長野県上田市の上田駅から、しなの鉄道(本社同市)の特別快速「サンライズ号」が発車した。長野駅まで直通30分。4両編成で全座席指定だ。各席にコンセントがあり、フリーWi-Fiも整備。座席はサラリーマンや高校生で埋まっている。

 同社経営戦略部の担当者は「うちの収入源は通勤通学」と話す。2022年度の輸送人員約1210万人のうち通勤通学者は74.4%を占める。

 サンライズ号は、20年7月に新型車両として導入。夕方以降は長野から上田へ向かう「サンセット号」を走らせている。

 同社は1997年、長野新幹線開業に伴い、JRから並行在来線として切り離された全国初の三セク鉄道会社として開業した。当初は赤字続きで、02年に民間企業から社長を招き、経営再建に着手した。同年に本社を長野市のビルから、上田市の工事詰め所に移転。ワンマン運転にシフトするなどコスト削減も進めた。

 05年度には純損益が黒字に転換。14年連続で黒字経営が続いた。台風による長期運休や新型コロナウイルス禍で、近年は赤字だが、客足は戻りつつある。

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 路線は27駅、102.4キロ。信州だけに駅そばは4駅で楽しめる。その一つ、小諸(こもろ)駅(小諸市)の構内では連日、地元農家が栽培した野菜を無人販売している。

 9月下旬の平日の昼下がり。列車を降りた女性や、エプロンを着けた地元の主婦らが、買い物袋に野菜を詰め込んでいた。キャベツとレタスは各130円、リンゴは5個入り350円。駅員は「夕方にはほぼ売り切れる」と話す。改札窓口では紙幣を両替できる。同駅にはワインバーもあり、地域住民の交流の場になっている。

 同社の担当者は「地域鉄道の継続には、沿線との共存共栄が不可欠。鉄道に対する住民の理解、地域のために走っているという事業者の意識が必要」と話す。

 同社は今年3月、日本郵便信越支社(長野市)と、地域活性化のための協定を締結。建て替えで、24年3月に完成する上田市の大屋駅構内に郵便局を開局し、局員が駅業務の一部を行う。同社は「連携したイベントだけでなく、古い車両をデザインした切手販売など、互いに利用者が増える施策を考えていきたい」と先を見据える。

 目先を変えたユニークな取り組みもある。

 同社は17年、3両1編成の車両を「初代長野色」と呼ばれる緑、赤、クリーム色に塗り替えた。ほかにオレンジと緑の「湘南色」、青とクリーム色の「横須賀色」にも塗り替えた。かつて長野県内を走っていた車両の色は、往年の鉄道ファンを喜ばせた。「コカ・コーラ」のロゴが入った赤色の復刻車両は「クラウドファンディング」を利用。1週間で目標額を達成した。

 新型車両の購入では個人1口5万円、法人1口100万円の出資を募り、5千万円を集めた。出資者には温泉宿泊券やワインなど沿線の特産品を贈呈。古い列車の部品を持ち帰るサービスも好評だった。

 開業から26年。しなの鉄道は「おらほ(私たち)の鉄道」として、沿線地域に根付いている。

⇒「【記者のつぶやき】なかなかやるな、しなの鉄道」を読む

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 来年3月の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。の第5章テーマは「ハピラインにバトン」。新幹線開業後、JR北陸線を引き継ぐ第三セクター「ハピラインふくい」の展望や課題を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン・各章一覧

【第1章】福井の立ち位置…県外出身者らの目から福井の強み、弱みを考察

【第2章】変わるかも福井…新幹線開業が福井に及ぼす影響に迫る

【第3章】新幹線が来たまち…福井県外の駅周辺のまちづくりなどをリポート

【第4章】駅を降りてから…観光地へどう足を運んでもらう?

【最新・第5章】ハピラインにバトン…JR北陸線を引き継ぐ第3セクターの展望、課題は?

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