1,300億円超の新病院計画 医師会会長に聞く統合再編の行方

JR広島駅前に建設が予定されている新病院の建設計画。2012年から検討され、「湯崎県政」史上、最大予算をかけた大型事業です。

総事業費1,300億円以上。なぜ今、広島市に新病院が必要なのでしょうか?広島県医師会の会長に直撃取材すると、医療業界の現状と課題が見えてきました。

■大都市圏の病院に比肩する全国トップレベルの医療

湯崎英彦知事が「東京・大阪の大都市圏の病院に比肩する全国トップレベルの医療をすべての県民に提供し続ける病院を作る」と話す『高度医療・人材育成拠点 基本計画』。

事業のメインは新病院の建設で、広島市南区にある県立広島病院、東区のJR広島病院、中区の中電病院、8年前に開業したがん専門治療センター「HIPRAC」の4つの病院が統合され、広島市東区二葉の里に建設される予定。規模は、新サッカースタジアムと同程度の敷地面積となる見込みです。

■課題の一つ「20代・30代の医師が少ない。むしろ減っている」

「構想から10年以上かかってもなかなかまとまらず、広島の医療界全体で議論を重ね、議論を重ね、やっとまとまった」

そう話すのは、広島県医師会のトップ・松村誠会長。10年以上かけた「大構想」となったのは広島の医療体制の課題が大きいことを表しています。

「人手不足の面で言えば、20代・30代の医師が非常に少ない。むしろ減っているという状況」

厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」のデータによると、医療施設に従事している広島県の医師数は、1996年以降で1,500人近く増えています。しかし、20代から30代の医師は17%減っており、平均年齢は47.8歳から52歳になりました。

また、2002年から2020年までの20~30代の医師の増加率の高い県のランキングでは、広島県は92.9%で30位。TOP10には、首都圏を中心に埼玉県や東京都、神奈川県などが並び、宮城県、岡山県など上位の県には1千床以上のトップレベルの病院があります。

■簡単に医療機関を利用できない無医地区 全国ワースト2位

もう一つの大きな課題は、偏りだと松村会長はいいます。

「広島都市圏、福山都市圏に集中している。そうするとちょっと離れた中山間地域での人手不足が、偏在のために起こった」

県北を中心に簡単に医療機関を利用できない無医地区は59地区。北海道に次いで、全国ワースト2位という結果です。広島出身の医師の派遣や医学部生への奨学金貸与の策を講じましたが、多くの人材確保には至りませんでした。

■救急医療 病院到着までに平均30分

さらに、救急医療の課題も挙げられます。

「(医師や病院が)分散しているために効率が悪いですよね。また、重複した医療機能を持っているために同じ病気でも患者さんどこ行ったらいいかとなる」

救急車から受け入れ病院に連絡をしますが広島市では、現場の滞在時間が平均19分。病院への搬送時間が11分と、合わせて平均30分かかっています。病院がすぐに受け入れられない理由としては、医師やスタッフなどの人と病院機能の分散などが挙げられています。

松村会長は、病院を統合することで、「迷わずに受診できる、県民にとっては非常に安心感があると思う。新病院に行けば必ず見てもらえるということになる」とメリットを強調します。

■住民からは不安の声も「待つ時間も長くなるでしょう」

分散した医療資源を集めることで、人材不足や医師の偏りを解消し、迅速で高度な医療が受けられる態勢を目指す新病院。広島市内4つの病院を統合するほか、舟入市民病院の持つ小児診療や土谷総合病院の小児循環器診療など一部の医療機関の機能も集約し、診療科目は41、1千床にする予定です。

一方、「集約」について、県病院近くに住む人からは、不安の声も聞かれます。

「県病院があるので近くに住んでいる。病院としてはまとまっていたほうがいいんでしょうけど、一カ所にまとめられると待つ時間も長くなるでしょうし」

「近いし何かあったらすぐここ(県病院)にかかりつけとかあるので、なくしてほしくない」

■再編は『試金石』 2030年度開院予定

新病院は地域全体に高度医療を展開するための基幹病院。地域の拠点病院と連携して、中山間地域の医療機関までいきわたるようネットワークを築いていく方針ですが、松村会長はこの再編はある意味で『試金石』だといいます。

「一時診療した後に大きい病院、次の病院に紹介するシステムが本当は望ましい。その医療の流れが必ずしも役割分担の上に成り立っていないわけですから」

「今後の課題は、人材をこの新病院に集積できるか。年代を集めて、機能を集めて、広島の医療の中心的な役割を果たして、県民の命と生活を守るということに尽きると思います」

現在、統合される病院について、県立広島病院は医療体制を残すことも検討されていますが、中電病院は閉院する方針。また、舟入市民病院や、土谷総合病院は小児診療機能が移りますが、それ以外の診療は続くとみられています。

2030年度に開院する予定の新病院。既存病院の動向も含め、医療体制がどのように構築されるのか、注目されます。

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