「不妊・去勢手術かわいそう」「餌あげて何が悪い」…保護猫が減らない背景 福井県動物愛護センター、大きい「説諭」の負担

飼い主のいない子猫を引き取っている県動物愛護センター。収容数は高止まりが続いている=10月、福井県福井市徳尾町

 福井県内全域の犬猫の引き取り業務を担う県動物愛護センター(福井市徳尾町)が2022年度に引き取った犬猫は654匹に上り、うち8割超の555匹を猫が占めた。ほとんどが子猫で、同センターの収容数高止まりの要因になっており、保護猫の対策が急務になっている。県は本年度から、不妊・去勢手術に取り組む市町への支援を始め、猫に手術を行ってから地域に戻す「地域猫」などの理解促進を図っている。

 同センターによると、県内の犬猫の収容状況は、各地の健康福祉センターが担っていた10年度は計1800匹余りだった。動物愛護業務を集約し同センターが開所した18年度には400匹程度に減ったが、近年は600匹前後で推移している。飼い主不明や増えすぎて十分な世話が受けられない子猫の引き取りが目立つという。

 動物愛護管理法では、周辺の生活環境が損なわれる可能性など「相当な理由」がない場合、自治体は飼い主が分からない犬猫の引き取りを拒否できる規定があるが、同センターは原則拒否していない。猫の引き取りは18年度の288匹から増加傾向にあり、22年度は前年度から11匹減ったが555匹に上り、収容数全体に占める割合は増え続けている。

 猫の引き取りに関する業務が、相談対応や意識啓発など他の業務を圧迫している状況もある。県は今年3月に策定した「第3次県動物愛護推進計画」で、飼い主のいない猫や多頭飼育の対策を柱の一つに据えた。

 具体策として6月補正予算で、飼い主のいない猫の不妊・去勢手術に獣医師会と連携して取り組む市町への支援制度を創設。現在は福井市など10市町が制度を設けており、他の市町も24年度以降に取り組む意向を示しているという。また、不妊・去勢手術した猫を地域に戻す「地域猫」の推進に向け、手術前の保護などを担う登録ボランティアへの支援制度も併せて整えた。

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 県の担当者は「保護猫の数を減らすことで、動物愛護への理解や地域で支える意識の醸成といった業務に注力できる体制につなげたい」と話した。

 県動物愛護センターの業務の中で、猫の不妊・去勢手術を行わないまま餌やりや飼育を続ける人に対する「説諭」が大きな負担になっている。猫だけでも年間200件近くに上り、担当者は「人の考え方が変わらなければ問題は解決しない」とし、地道な呼びかけを続ける。

 「動物に餌をあげて何が悪い」「手術をするなんてかわいそうだ」。センターへの相談や苦情を基に原因とみられる人に対応する際、職員はこんな言葉を投げかけられるという。不妊・去勢手術などに理解を得るため、何度も足を運ぶ必要があり、対応が長期にわたる場合もある。

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 当事者だけでなく、地域の理解も欠かせない。福井市内のある自治会では、総会で野良猫問題を話し合い、地域猫の受け入れを決めた。センターの森中和人事務局長は「地域猫も命を全うするまで見守る必要があり、その周知や理解には時間がかかる。理解者が一人でもいれば問題解決につながる」と強調する。

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