WRCスチュワード、ラリージャパンでの“ゼロカーのコース停止”を競技規則違反と判断。調査結果により状況が判明

 11月18日に開催されたWRC世界ラリー選手権第13戦『フォーラムエイト・ラリージャパン2023』デイ3午前に行われたSS9“Nukata Forest 1”で発生したオフィシャルカー(ゼロAカー)のコース上停止について、WRCスチュワード(審査委員会)が調査結果を発表。関係者からの話を聞いたうえで「2023年FIA国際競技規則違反」と判断した。

 今年もWRCシーズン最終戦として愛知県と岐阜県で開催されているラリージャパン2023。18日の競技3日目では、オープニングステージとして開始された額田の森SS(SS9)でゼロカー(0A車両)が「ステージ上の危険な場所に立っている観客に出くわし、移動を促すため」に停止。ティエリー・ヌービル(ヒョンデi20 Nラリー1)と勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)がゼロカーに接近したことで赤旗が提示され、競技が一時中断される事態が起こった。

SS9“Nukata Forest 1”のコース上に停車していたオフィシャルカー(ゼロAカー)

 このアクシデントに対しては、同日にメディア向けに発表されたFIAコメントで調査開始が言及されていたが、翌19日(日)に、WRCスチュワードはゼロAカーのドライバーやコース管理者の話を聞いたうえで、“STEWARDS DECISION No. 4”で当時の状況ならびに関係者の処分を発表した。全文は以下のとおり。(英文PDFはこちら

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19.11.2023
STEWARDS DECISION No. 4

 報告を受けたスチュワードはコース管理者から話を聞いたうえで、以下の事項を検討し、次のように決定した。

事実

 SS9(額田の森1)スタート前、ゼロAカーはステージ上で2度にわたって安全でない位置に停止し、4台の競技車両の走行を妨害した。

違反

 コース管理者が合理的な措置を取らなかったため、安全でない状況が発生した(2023年FIA国際競技規則第12.2.1.h条違反)。

決定

 コース管理者が安全を確認しないままステージをスタートしたため、深刻かつ危険な状況が発生した。この主な原因は、ゼロAカーのクルーが、3回の事前安全ブリーフィングで伝えられた『スタート地点から離れた後はステージ上に停車しない』という指示に従わなかったことである。そして、コース管理者はステージをスタートする前にゼロAカーの位置を適切に確認しなかった。スチュワードは、この行為を2023年FIA国際競技規則第12条2.1.h違反であると判断し、以下のように判定する。

1)本イベントの実施責任者として、コース管理者にけん責を課す。
2)適切と判断される場合、この事件をFIA WRC委員会に付託し、さらなる処置を求める。

理由

 まずスチュワードは、2023年11月18日(土)10時30分にコース管理者と面会し、発生した事態の包括的な報告書を作成・提出し、安全でない状況(ゼロAカーがステージから出る前にステージをスタートさせたこと)の原因を特定するように要請した。

 16時00分、コース管理者はスチュワード室に戻り、関連するすべてのマーキングとタイムスタンプが記されたステージの地図を含む詳細な報告書を提出した。スチュワードは通訳の協力を得ながら、コース管理者に対し、報告書に記載された状況と事実関係を明確にするよう求めた。

 コース管理者はスチュワードに対し、トラッキングシステムによるとゼロAカーがステージ上で2回停止していることを伝えた。コース管理者は、ゼロAカーがメカニカルトラブルを抱えていると推測していたが、停止理由は、ゼロAカーのクルーがステージを移動中に発見した無許可の人物を排除するためであり、この事実をラリー本部に報告する能力が無線では制限されていたことを述べた。

 コース管理者によると、彼はステージコマンダーからゼロAカーはステージ開始前に退去したと聞いていたが、その後の調査で、ゼロAカーの居場所を報告した場所についてステージコマンダーの誤解があったことが判明した。彼はステージコマンダーからの報告から、ゼロAカーがステージから安全な位置に移動し、ステージを開始させるために準備できていると思い込んでいた。

 スチュワードは16時30分に公聴会を中断し、何が発生したのかをさらに説明するため、コース管理者にゼロAカーのクルーとともに戻るよう要請した。

 16時50分、コース管理者がゼロAカードライバーの星野博、コドライバーの髙橋浩子、コースカー・コーディネーターの佐藤忠良とともにスチュワード室に戻った。

 ゼロAカーのドライバーとコドライバーは、コース管理者の発言を確認した。彼らは、自分たちがいた場所には無線信号がなかったため、ステージ上にいた無許可人物の存在をラリーコントロールに伝えることができず責任感で行動し、ステージ上にいた無許可人物の安全を心配していたと述べた。

 彼らはステージ上にマーシャルを見つけ、ステージコマンダーに報告するように求めた。そのマーシャルはステージコマンダーから、ステージから人々を排除することを手伝うように要請されたと答えたという。そのため彼らは、自分たちがステージから安全な場所に移動するまで、ステージは始まらないものと思っていた。

 ゼロAカーのドライバーとコドライバーは、イベント前に行われた3回の安全ブリーフィングで、ゼロカーの役割は『スタート地点から離れたらステージ上で停止しない』ことであると指示されていたが、その指示に従わなかったため、危険な状況が発生したことを認めた。

 コース管理者は、ゼロAカーのクルーがその場の勢いで不適切な行動をとったことを認め、その全責任を負うことを申し出た。コース管理者は関係オフィシャルと同様、スチュワードの調査に透明性をもって全面的に協力した。

 スチュワードはコース管理者に対し、ゼロAカーとラリー本部およびステージコマンダーとの間の無線通信が、現地の無線ネットワークと関係する地形の制限により不可能であったこと、ゼロAカーのクルーが指示に従わなかったこと、ゼロAカーの位置についてステージコマンダーの誤解があったことなど、コース管理者に不利な状況を考慮した。

 しかしスチュワードは、この単独インシデントは充分に深刻な性質のものであると判断し、それが適切と認められた場合は、FIA WRC委員会にさらなる処置を付託する。

 この決定は、2023年FIA国際競技規則第11.11.3条、第12.2.1.h条、第12.4.1.b条、および2023年FIA世界ラリー選手権競技規則第1.1.3条に従って行われた。

 すべての関係者は、2023年FIA国際競技規則第15条および、FIA司法懲戒規則第4章に従い、スチュワードの決定に対して上訴することができることに留意されたい。

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