耕作放棄地を果樹園に再生 兄弟で独自のクラフトビール製造 「農村に新しい価値を」 雲仙・国見

ベルガモットのクラフトビールで乾杯する渕上桂樹さん(右から2人目)、敏秀さん(中央)ら=長崎市、農家Bar NaYa

 長崎県雲仙市国見町の兄弟が、市内の耕作放棄地を果樹園に変える挑戦をしている。渕上桂樹さん(39)と、果樹生産者で弟の敏秀さん(35)。10日、育てたベルガモットを使ったオリジナルのクラフトビールを桂樹さんが経営する長崎市内のバーで披露した。2人は「これは第1弾。農村に新しい価値を創り出したい」と目を輝かせる。
 新型コロナ禍が始まった2020年。「農業が盛んな雲仙で、農村に新たな価値を見いだして仕事をつくりたい」。2人は近所の畑でハーブや果物を育て始めた。
 爽やかな香りに引かれたのが、イタリア原産のベルガモット。ミカン科の常緑低木樹。果実は食用に向かないが、皮から精油が取れる。国内産は珍しく、本格的に栽培しようと、雲仙市の協力を受け、21年、瑞穂町に耕作放棄地(3.5ヘクタール)を借りた。
 地面が見えないほど雑草に覆われた土地。背丈を超える雑草を機械でひたすら刈った。トラックも入らず、切断した木や草などを歩いて運び出し、半年がかりで畑に整地した。
 機械がぶつかり進めなくなった先にあったのは、石段で区切られた段々畑。「この石段を何世代も前に作った人がいる。自分たちも次の世代のため、荒れ地だった場所に実りをもたらしたい」と桂樹さん。今年4月、80本のベルガモットの苗木を植え、半年後の現在、高さ1メートル超、直径約6センチの実が黄緑に色づいている。
 2人は同市国見町の畑でもベルガモットを栽培。この秋、収穫した実を使い、長崎市の醸造所「敷島カンパニー」にクラフトビールの製造を依頼した。1瓶330ミリで500本。10日、同市鍛冶屋町のバー「農家Bar NaYa」であった試飲会で、約20人の関係者に披露。「いい香りでおいしい」「長崎の特産品に」と感想が寄せられた。同店のメニューの一つとして味わえる。
 雲仙市瑞穂町の畑には来春、さらに400本のベルガモットを植える予定。アロマオイルやバスソルト、紅茶に香り付けしたアールグレイ、花から採ったハチミツ…。活用のアイデアは尽きない。「ライムやヘーゼルナッツも収穫したい。畑の入り口に、見学者向けのカフェもできればいいね」。広い畑以上に、2人の夢は大きい。

耕作放棄地を開墾した畑に植えたベルガモットの苗木を見詰める渕上桂樹さん(右)と敏秀さん=雲仙市瑞穂町

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