ウクライナ文化を長崎から 戦火を逃れた大学院生ら ネットで伝統衣装など販売 「伝えて平和へ」

ウクライナの特産の蜂蜜を使ったみつろうラップと民族衣装「ヴィシヴァンカ」を着たアナスタシアさん(右)と高見さん=長崎市住吉町

 「本当のウクライナ文化を伝えたい」-。ウクライナから避難し、長崎大大学院で学ぶアナスタシア・ストラシコさん(25)と知人の高見翔希さん(26)がオンラインショップをオープンし、伝統的な衣装や雑貨の販売を始めた。文化の普及を通してウクライナの平和を目指している。
 アナスタシアさんの故郷は東部ドニプロ。ロシアの侵攻を受けジョージアに母と弟と避難。日本の大学の受け入れを知り、昨年5月、長崎大大学院に入学した。
 高見さんは兵庫県出身。2019年からロシアで事業を始め、侵攻後は旧ソ連内に滞在。その後、長崎に拠点を移した。ロシア語を生かして通訳ボランティアを始め、ウクライナ人学生たちと知り合った。
 「(ウクライナの伝統料理)ボルシチはロシア料理」。ロシア人インフルエンサーが紹介する動画を見て、高見さんは危機感を抱いた。「何げない文化の侵食も侵攻につながったのでは」「文化も守らないと」。ウクライナ人学生たちとこう考え、5月、アナスタシアさんが交流サイト(SNS)で発信を始めた。
 不正確なウクライナ文化を発信する人がいると気付いたアナスタシアさんは、正しい伝統を紹介しようと考え、故郷を中心にデザイナーや職人、モデルを調整。輸入から販売を手がける「UA.Designer」を設立し、代表に高見さんが就いた。ボランティアではなく、持続可能で、現地の人に仕事を提供できるビジネスにこだわり、9月にサイトを開設。商品は職人が手がけたものを輸入し、一つ一つを「文化」として大切に扱う。商品説明を充実させ、風習や料理のレシピも紹介する。
 看板商品の一つは、ウクライナを代表する民族衣装「ヴィシヴァンカ」。高品質な素材と、色や柄で地域ごとの特色を表す手縫いの刺しゅう「ヴィーシフカ」が用いられている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産である伝統技法「ペトリキフカ塗り」の雑貨や、リウネ州特産の蜂蜜を使ったみつろうラップなども扱う。
 高見さんは「日本でウクライナのイメージが戦争であるように、侵略の要因の一つは国が知られていなかったことかもしれない。文化を伝え、戦後もウクライナが永久に平和であるための力になりたい」と語る。
 オープンから約2カ月。日本での販売は、職人らが自国の文化に自信を持つきっかけになり、アナスタシアさんは喜びを感じるとともに、侵攻終結を願う。
 その日がきたら、ウクライナに日本を伝える「架け橋」になるという新たな夢を抱く。日本の文化も積極的に学んでいるアナスタシアさんは「両国の関係を前に進めたい」と目を輝かせて語った。

職人が手縫いで作り上げた伝統刺しゅう「ヴィーシフカ」。柄を強調するため異なる種類の糸を使っている

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