検察「ねつ造はリスクがあり、不可能で非現実的」最大の争点「5点の衣類」が審理の対象に 弁護団「検察の主張は非常に弱く根拠薄い」【袴田事件再審ドキュメント③】

1966年、静岡県旧清水市(現静岡市清水区)で一家4人を殺害されたいわゆる「袴田事件」で死刑が確定されている袴田巖さん(87)の再審=やり直し裁判は11月20日、静岡地方裁判所で3回目が開かれ、審理の対象は最大の争点「5点の衣類」に移りました。

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捜査機関のねつ造まで指摘されている衣類について、検察は「ねつ造は不可能で非現実的」と訴えました。

<伊豆川洋輔記者>
「第3回公判では、1日をかけ検察の立証が進められます。審理は、東京高裁でねつ造の疑いが指摘された疑惑の証拠「5点の衣類」の具体的な審理に入り、再審公判の争点に突入しました」

<姉・袴田ひで子さん(90)>
Q今回の公判では検察側から「5点の衣類」の話が出るが
「まあ、聞いてるしかないね。何時間かかるか知らんが、長々とやるだろうと思う。『5点の衣類』は肝心なものですから。慎重に聞いております」

48年に及ぶ収監で精神的に不安定な状態が続く袴田さんは、出廷が免除され、被告人不在という異例の展開で20日も裁判は進みました。

検察は、再審でも袴田さんの有罪を立証する方針で、設定した論点は3つです。

(1)犯人はみそ工場関係者で、犯人の事件当時の行動を袴田さんが取ることが可能だった (2)いわゆる「5点の衣類」は袴田さんの犯行着衣であり、事件後に隠されたもの (3)袴田さんが犯人であることを裏付ける事情が他にもある

前回の公判までは、(1)に関する議論が展開され、20日から審理の対象は(2)にあたる「5点の衣類」に移りました。

検察側はまず「5点の衣類」について、
(1)5点の衣類は犯人が犯行時に着ていたもの、 (2)5点の衣類は袴田さんのもの、 (3)5点の衣類は犯行時袴田さんが着用していた、 (4)5点の衣類を隠匿した (5)ねつ造は非現実的

と整理。事件前に袴田さんが白い半そでシャツやねずみ色のシャツなど、「5点の衣類」の一部を着ていたのをみそ工場の従業員が見ていたほか、犯行着衣のズボンの共布が袴田さんの実家で発見されていることから、「5点の衣類」は袴田さんの犯行着衣で、犯行後にみそタンクに隠したなどとあらためて主張しました。

2023年3月、再審開始を決めた東京高裁が指摘した「ねつ造の可能性」については、

▽袴田さんが事件前に着ていた衣類と同じようなシャツなどを捜査機関が用意するのは困難 ▽従業員以外がみそ工場に立ち入り、タンクの中に「5点の衣類」を入れることは難しい ▽捜査機関が「5点の衣類」をねつ造しようとした場合、さまざまなリスクがある

など、7つの理由をあげて、「弁護人の主張は非現実的で実行が不可能」と疑惑を否定しました。

2014年に袴田さんの再審開始と釈放を決めた静岡地裁の元裁判長は、袴田事件における「5点の衣類」についてこのように表現しました。

<静岡地方裁判所元裁判長 村山浩昭弁護士>
「確定審の証拠というのは『5点の衣類』だけが突出している。それ以外に袴田さんの犯人性を支える証拠というのは、一体どれだけあるのか。過去の証拠を総合的に評価すると、袴田さんの犯人性を支える証拠は『5点の衣類』以外にはあまりないんですよね。それが新証拠によって、かなりその疑問点が深まったということになればですね、袴田氏が犯人だという認定自体は相当脆弱」

袴田さんを半世紀以上にわたり、犯人としてきた「5点の衣類」。今回は聞く側に回った弁護団は、閉廷後の会見で、検察の主張を厳しく批判しました。

<袴田弁護団 小川秀世弁護士>
「(検察側の主張は)非常に弱いところばかりという印象。根拠は薄く、犯行着衣とは確信できない。検察が一番弱いところは、まさに犯行着衣かどうかという立証が一番不足しているし、検察側も自覚していると思う」

また、姉のひで子さんも怒りをあらわにしました。

<姉・袴田ひで子さん(90)>
「なにか知らんが書いたものを読んでいる感じ。みそタンクに会社のたっての希望で検査しなかったというが、そんなばかなと聞いていた。これじゃ、えん罪はなくならないなと思った」

次の審理は12月11日に予定されていて、弁護団が「5点の衣類が捜査機関によるねつ造といえる根拠」などについて主張する方針です。また、争点のひとつとなっている血痕の色味についての議論は年明けになる見通しです。

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