<インタビュー>15季ぶりのJ1復帰へ!J2で躍動する現代型サイドバックJ2千葉MF髙橋壱晟がJ1昇格プレーオフにかける思い

15シーズンぶりにJ1復帰を目指すジェフユナイテッド千葉は、今季J2で19勝10分13敗の勝ち点67でJ1昇格プレーオフ(PO)圏内の6位に入り、今月26日午後3時に東京・味の素スタジアムで東京ヴェルディとのPO初戦を迎える。

これで同POは5度目の挑戦となるが、これまであと一歩のところでJ1昇格を逃してきた。千葉はJリーグ創設期から名を連ねるオリジナル10と名門クラブだが、J1復帰の壁は高く、険しく、きびしいものだった。

それでも今季は既存戦力と新戦力が上手く調和する形で、システムを試合中に4-2-3-1から4-3-3(4-4-2のスタイルも並行)へと戦局に合わせて柔軟にフォーメーションを変更する戦術を駆使。ときには激しいプレッシャーでカウンターにつなぎ、元日本代表MF田口泰士を中心にパスを丁寧につないで手厚い攻撃を見せて後半戦の快進撃につながった。

その中で今季から中盤から右サイドバック(SB)にコンバートしたMF高橋壱晟の貢献は大きかった。攻撃時はしっかり前線へ顔を出し、献身的にサイドを上下動する他、ビルドアップでの起点つくりや、中央へインナーラップして味方のパスワークをサポートするなど、攻守において多大な貢献を見せた。

Qolyは注目の司令塔型SBである高橋にインタビュー取材を敢行。今季コンバートされた右SBへの手応えやJ1昇格POに向けての意気込みを聞いた。

今季コンバートした注目の右SB

――今季は振り返っていかがでしたか。

今年プロで7年目になりましたけど、いままでで1番長く試合に出られたシーズンになり、個人的には充実感のあるシーズンでした。

――今季は第21節いわきFC戦で右SBとして先発出場してから出場機会が増加しました。SBにコンバートされた経緯を教えてください。

右SBがあまり固定されていなかったチーム状況の中で、小林(慶行)監督に「チャレンジしてみてほしい」と言われました。急にやることになりましたね。

――コンバートを言われたときの心境はどうでしたか。

僕の中ではとにかく試合に出ることが優先でした。どのポジションでも試合に出てなにかを得られる喜びのほうが大きかったので、思いきりチャレンジしようと思いました。

――コンバートといえば、いわき戦で対戦した青森山田高の同期嵯峨理久選手も右SBにコンバートされた選手です。親友とのSB対決は燃えるものがありましたか。

理久は今年苦しい時期を過ごしていると思います(9月に左足関節内果疲労骨折と診断)。いわきとの試合でプレーしたときは僕が初めてスタメンだったので、SBだと予想できなかったと話をしていましたね。

――嵯峨選手はSBにコンバートしてから昨季J3ベストイレブンに入りました。刺激になりましたか。

もちろん理久がすごく活躍していて僕がなにもできていない状況で、仙台大学のときから含めて何年も何年も…。逆もあったと思いますね。僕が活躍しているときに悔しい思いをしていたと思う。それをいい意味で刺激し合えるというか。仲良くても、負けたくないですよ。やっぱり仲がいい分、悔しいですからね。

キャリア初のSB挑戦

青森山田高時代は前線、シャドー、中盤の底など幅広くプレーした高橋。複数ポジションを器用にこなすポリバレントな能力と戦術理解能力の高さは、FC町田ゼルビアをJ2初優勝に導いた黒田剛監督も高く評価していた。ただSBはキャリアで初めてプレーするポジションだったが、持ち前の適応能力で背番号2は難なく適応した。

――青森山田高時代から振り返って、中盤を主にプレーしていましたが、SBのプレー経験はありましたか。

初めてでしたね。サッカーを小学校からやってきましたけど、1回もやったことがないです。

――初めてプレーするポジションに心配事はありましたか。

心配はなかったですね。やったことがないので、逆に僕がミスしようが「僕のせいではない」と振り切って、いま自分がイメージできるSBを思い切りやろうというだけでした。

――SBから見える景色はいかがですか。

新しいポジションですし、毎試合課題と修正する場所ポイントを見つけながら、繰り返しながらやっていく感覚がすごく楽しかったです。

――楽しかったんですね。SBの魅力を教えてください。

SBはポジション的にプレスのかけどころというか、ハマりやすいところだと思うんですけど、それをうまく自分のポジショニングで解決することや、そこをうまく外して前進できることがすごく楽しいと思いました。

それだけじゃなくて守備の部分や毎試合違う相手と対戦していく中で、いろんな経験を積んでいくことに楽しさを感じましたね。

――苦労したポイントを教えてください。

基本的なディフェンスラインの守備のやり方をそもそも知らなかったので、フィジカルの部分より頭の部分をしっかり整理することが大変でしたね。

――例えば絞るタイミングなどですか。

そうですね。ポジショニング、絞る、体の向きなど“守備が基本”といわれる部分を坂本(將貴)ヘッドコーチに細かく毎試合修正していただきました。

――プロでは主にボランチでしたけど、違いはありましたか。

スプリントの回数が違いますね。長い距離を走る回数が違う。もちろんポジション的に見れば分かると思うんですけど、視野が違います。プレッシャーを受ける角度が違いましたね。

――ポジションが変わって走り方が変わると思いますが、体力面の課題はありましたか。

基本的にスプリントは何度もできるように、中盤でもゴール前に入るプレーや、戻れることを意識してトレーニングしてきました。

すごく大変だったわけではないですね。もしかしたらSBのほうが向いていたのかもしれないです。

偽SBもこなす司令塔型SBに変ぼう

右SBに定着した高橋は開花するように右サイドで躍動した。今季は30試合に出場し、出場時間が2255分とキャリアハイを更新。プロ3年目の2019年にモンテディオ山形へ期限付き移籍した際は、公式戦出場ゼロと苦しい時期を過ごした。昨季はリーグ戦8試合出場と思ったような出場機会を得られなかったが、SBに活路を見出した高橋はサイドの底からボールを的確に配給する司令塔型SBに変ぼうした。

――プレーを見ていて似ている選手を挙げるとしたらカンセロ、キミッヒ、ジンチェンコ、内田篤人さんのような司令塔型のSBを思い浮かべました。

スピードがあってギュンギュンとしかけられるタイプではないので、より頭を使って、サッカーを理解した上でプレーできるようにしていくことがいいんじゃないかと。

カンセロ選手はちょっと飛躍しすぎです(笑)。でも理想はそういったいろんなことができることで、チームにいい影響を与えられる選手になれたらと思っています。

バルセロナでプレーするジョアン・カンセロ(左)

――インナーラップで入った際、偽サイドバック(ボランチなどが集まる中盤へ移動してボランチの役割もこなす高度な個人戦術)的な個人戦術をトライしているようなシーンがありましたね。

(偽サイドバック)やっていますね。基本的にチームのやり方にもよると思うんですけど、チームで原則とされている、確立されているものに、少しでも自分がアイディアを加えたりしています。

右サイドのユニットの中で、うまく立ち回れるように試合を見ながら考えてやっていました。

――右SBをプレーする上で自信を持っているプレーはありますか。

ビルドアップですかね。もともと中盤をやっていたということもあって、そこは繊細にやっている部分です。もちろん負けたくない部分はいっぱいあるんですけど、ボールを持つことに関して逃げることはしたくないです。

――現代サッカーではSBが1番ボールを触れるポジションといわれています。いままでボランチ、トップ下で培ってきたものをSBでどう表現したいですか。

時間を作れるようになりたいと思っています。僕のところでボールがしっかり収まることで、周りの選手たちにいい時間を与えられるようにと思っています。

――SBとして成功していくための完成形のビジョンは持っていますか。

サッカーはすごく変化しています。SBに求められるタスクは、すごく多いと思います。そうなると、いままでだったら縦の上下動だけで良かったSBが、中に入るプレーや、高い位置を取るプレー、センターバックの役割もこなさなければいけない。

よりマルチにプレーできる選手が生き残っていくんじゃないかと思います。もともとできないプレーがあることがすごく嫌でやってきました。そこを意識してやる必要があると思っています。

――高橋選手のキャリアの目標を教えてください。

ヨーロッパのトップレベルに行きたいです。年齢的にはかなりギリギリかもしれないですけど、どうなるか分からない。いま世界のトップでも30歳を超えても活躍している選手はたくさんいるので、常に上を目指してやっていきたいです。

――その舞台に立つためには何が必要ですか。

まず基本的に絶対的な身体能力が必要だと思っています。フィジカル、スピードがないとSBであの舞台では戦えないと思っています。プラスしてチームの戦術の中にどう入っていけるか。

やれることが多いほうが、より機能的なチームでは重宝されると思っています。形を変えたときに、できる選手がすごく重要だと思っています。

チームのバランスを取る優れた戦術理解

チームは今季序盤に右SBを固定できずにいたため、右サイドの流動性に課題を抱えているように見えた。ただ背番号2が右SBにコンバートされてからビルドアップのバリエーション、サポートの増加などが見受けられ、右サイドの攻撃の幅が広がった。逆サイドの左SBを務めるDF日高大(まさる)との位置関係などピッチ全体を俯瞰してバランスを取れる高橋は、チームにとって無くてはならない存在となった。

――次はチームの話をお聞きします。今季チームは後半戦にかけて調子を上げましたけど、振り返っていかがでしたか。

なかなか上手くいかない時期がある中で、それでもパワーを出してやり続けたことで、徐々に積み重なってきたものが形になってきたと思います。

――今季いわきから加入した左SBの日高選手は逆サイドでのクロスやオーバーラップと攻撃面で違いを作っています。彼から受けている刺激を教えてください。

すごく推進力がある選手だと思っていますし、その推進力がチームに対してかなりパワーを生み出していると思う。

僕はどっちかといえば“静的”だと思うので、大くんが左で(攻撃的な)パフォーマンスを見せてくれることで、僕もちょっとやりやすくなっている部分があると思います。チームのバランス的にもいいんじゃないかと思っています。

――ジェフの戦術は局面によって、4-2-3-1から4-3-3に変形することがありますけど、SBとしてこの戦術にどう対応しましたか。

基本的にチームの戦術、やりたいことは一貫しています。どのポジションになろうが、基準となるプレーは明確です。SBになってやり方が分からなくなることはなかったです。

――フォーメーションが4-3-3に変形した際は、右ボランチの田口選手がアンカーの位置に入ることがあります。田口選手との関わり、意識している点を教えてください。

ビルドアップのときは、基本的に田口選手を中心に見ながらプレーできるようにしています。

田口選手をどうフリーにできるかで、僕やセンターバック、SBのポジショニングを含めてカギになってくると思う。そこにマンツーマンで付いた場合は、他のスペースが広がってくることもチームで理解していると思う。

うまく田口選手を使いながらプレーできることでチームのリズムが出てくると思いますし、やっぱり泰士さんはすごく上手なので中心の選手ですね。

田口泰士

――フォーメーションを4-3-3へ変形にするとトップ下のMF風間宏矢選手が右のインサイドハーフにポジションを取る局面が見られます。ここで攻撃のスイッチを入れていると思います。風間選手、田口選手、一列前の田中和樹選手とのユニットはどう意識して変化に対応されていますか。

「相手のどこにスペースがあるか」とよく話していて、事前の分析やスカウティングもやっています。そして「誰がどうマークに付いてくるか」と話しながら、風間選手と右(ウイング)の田中和樹選手とコミュニケーションを取りながらプレーしています。

――明かせる範囲でチームコンセプトを教えてください。

基本的には1対1のバトルで負けないこと。それから相手の嫌がるところを突いていくことですね。

――今季見ていてジェフは相手に合わせるというよりは、ベースの部分を変えないで貫く形で勝ち抜いてきた印象があります。ベースとなる強みを教えてください。

1年間積み重ねてきているものが僕らの強みです。少しずつ変化している部分はありますけど、ベースとなるものは勝てない時期も勝っている時期もなにも変わらずにやれている。それが(顕著に表れた時期は)、今年の後半戦ですね。勝点を重ねた理由だと思っています。

15季ぶりのJ1復帰へ

初戦の相手である東京Vは第10節に1-0で勝利し、第39節に2-3で敗れて1勝1敗のイーブンとなっている。順位で下回る千葉が勝ち抜くには勝利以外の条件がないため(相手は引き分けでも初戦突破)、勝利が絶対条件となっている。普段は物静で誠実な高橋は、沸々と内に秘める闘志を静かに燃やしていた。

――今月26日に東京Vとの初戦を迎えます。高橋選手が出場したら、どのようなプレーで15年ぶりのJ1復帰に繋げたいですか。明かせる範囲で教えてください。

僕一人では何もできないです。チームとしてうまくいい流れでプレーできるようにしたいと思っています。

僕のこのプレーを見てほしいというよりは、チームの中でしっかり機能するように振る舞いたいです。

――東京Vとは今季1勝1敗で互角です。相手の印象を教えてください。

非常にタフなチームだと思っています。相手の嫌なことを消してくる粘り強いチームだと思っています。

――東京Vと対戦する上で警戒している部分を明かせる範囲で教えてください。

アグレッシブなチームですし、終盤までパワーを落とさない選手のメンタリティーもあります。アウェイのゲームでは、それで逆転されてしまった。僕らも今年1年間タフにやってきたので、それこその勝負でもあるのかなと思っています。

――東京V戦に向けての意気込みを教えてください。

1度負けた相手に2度も負けられません。必ず借りを返して決勝に進みたいです。

――復帰すれば15年ぶりのJ1になります。この連戦で必要となるものはなんでしょうか。

まさにチームの総合力が問われると思っています。僕らは6位なので引き分けではいけない状況で、かつアウェイです。サポーターも含めて、クラブが一体感を持って戦いたいです。

勝つしかないので、スタートから勢いを持っていくことが僕らのスタイル。最後まで貫いて頑張りたいです。

――15年も待っている方々がいます。サポーターにメッセージをお願いします。

毎年、毎年J1に昇格すると言いながら、なかなかこういうチャンスが来なかったです。あと一歩のところまで来ることもなかなかありませんでした。

この舞台に立てること、サポーターの皆さんとともにJ1昇格の切符をつかみ取ることが現実になるよう頑張りたいと思っています。

たくさんのファンのみなさまにPOに来ていただけることを楽しみにしています。僕らとともに必ずJ1への切符をつかみ取りましょう。

オリジナル10に名を連ねた日本を代表する名門千葉は、15年の間J2で足踏みし続けてきた。先人たちはこの泥沼から抜け出すためにもがいてきたが、J1昇格の壁に阻まれてきた。それでも今季の千葉は魅力的なサッカーを披露して、5度目のPO挑戦に臨む。

【関連記事】教え子が見た名将。千葉MF髙橋壱晟、いわきMF嵯峨理久が見た町田・黒田監督とは

攻守に渡ってチームを支え続けた高橋の表情は凛々しく、気迫に満ちあふれている。身を粉にしてでも宿敵たちを打ち破り、J1復帰の悲願を達成してみせる。

© 株式会社ファッションニュース通信社