長崎から世界へ デフバスケット日本代表候補・松尾芽依 練習漬けの日々…夢に向かって一歩ずつ

2025年東京デフリンピック出場を目指して練習に励む松尾=長崎市、福田中体育館

 身長151センチの小さな少女が大きな夢へ向けての第一歩を踏み出した。松尾芽依(瓊浦高)は今春、聴覚障害者のバスケットボール「デフバスケット」の日本代表候補に選ばれた。「正直びっくり。でも、代表の高いレベルで自分を成長させたい」。長崎から世界を見据えた挑戦が本格的に始まった。
 生まれつき耳が聞こえず、3歳のころに人工内耳(音を電気信号に変換して直接神経を刺激する装置)手術を受けた。それでも、健常者の聞こえ方には程遠く、言葉の発達も遅かった。小学4年まで地元の福田小に通ったが、5年から県立ろう学校に転校した。
 バスケットに興味を覚えたのもそのころ。競技をしていた3歳上の兄の試合を応援したのがきっかけだった。コートで躍動する兄の姿に「かっこいいな。私もやってみたい」。バスケットへの思いは日々膨らんでいった。そんな娘の思いとは裏腹に、両親の考えは揺れていた。「やらせてあげたいが、他の子とコミュニケーションをどう取るのか。コンタクトスポーツは厳しいのでは…」
 両親の背中を押してくれたのは、娘の友人の母で福田小ミニバスケット部の中村志穂美コーチだった。「芽依にバスケをやらせてあげて。心配せんで、私が全部面倒見るけん」。熱い言葉に両親は折れた。娘は6年からコートに立つようになった。福田中進学後も迷わずバスケット部に入部。どうしても上達するまで時間はかかったが、大好きなバスケットをできる日々は「楽しかった」。
 デフバスケットとの出会いは中学3年の夏。学校の友人に誘われ、福岡県で開催されたデフバスケットの体験会に参加した時、たまたま会場に来ていたデフバスケ日本代表コーチの目に留まった。プレーや競技歴が評価されて日本代表合宿参加を打診された。
 それから約3カ月後。合宿に参加してみると、選手のレベルの高さに驚いた。シュートの精度、ディフェンスの強度-。すべてがお手本のようなプレーだった。自分は参加者の中で身長も一番低い。「代表に入るのは厳しいかな」。そう諦めかけていた今年3月、日本代表(U18育成ランク)に選ばれた。経験や将来性が認められた。
 高校は「普通の女子高生をしたい」という思いから瓊浦高を選んだ。もちろん、バスケット部に入り、平日は学校、週末は県外のデフチーム練習、合宿に参加している。「自分は身長が低いので3点シュートで勝負していかないといけない」。平日は練習後に福田中でシュート練習をするなど、バスケット漬けの日々を過ごしている。
 目標がある。来年、アルゼンチンで開催されるU21世界デフバスケット選手権の日本代表、そして2025年東京デフリンピックの大舞台だ。「まだ下手だけど、3年間一生懸命練習して代表に選ばれる選手になりたい」。夢に向かって、一歩ずつ前に進んでいこうと決めている。

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