大分市木佐上で歩行中の男性(68)がJR日豊線の特急列車にはねられ亡くなった現場は、遮断機と警報機がない「第4種踏切」で、住民が日頃から危険性を指摘していた。「恐れていたことが起きてしまった」。地元は嘆く。県内には同種踏切が22カ所で確認されている。国は安全性に問題があるとして鉄道事業者に対策を促すものの、多額の費用を伴うため遅々として進んでいないのが現状だ。
「危ないと思ったことは何度もある」。現場近くの女性(78)はうつむいた。「列車が近づいても警笛を鳴らさないこともあった。孫が遊びに来た時は、特に心配している」
踏切は県道と4世帯・6人の集落を結ぶ里道上にある。幅約1.5メートル。軽乗用車がぎりぎり通ることができる。
「とまれみよ」「危険」などと書かれた標識が立っているのみで、列車の接近は自分の目と耳で確かめるしかない。
事故は18日午前10時50分ごろに発生した。亡くなった男性は集落の知人方へ向かう際に事故に遭ったらしい。約400メートル南側には、線路の下をくぐるアンダーパスがあるものの、集落の駐車スペースから遠くなるため踏切を渡ろうとしたとみられる。
単線のレールは緩やかなカーブで、1日当たり67本の列車が通過する。周囲に木が生えているため、踏切からの見通しは良くない。
集落で暮らす高山昭徳(あきのり)さん(78)は「当日は風が強く、物音が聞こえにくかった。列車に気付くのが遅れたのでないか。遮断機があれば防ぐことができたかもしれない。残念でならない」と悔しがる。
総務省によると、第4種踏切は鉄道の安全基準に適合せず新設できない。2019年度に全国の約2600カ所に残っていた。同省は21年11月、解消策を加速させるよう国土交通省に勧告。各鉄道事業所は踏切の廃止または警報機などの設置といった対策を取り、2年間で約200カ所減ったという。
ただ、県内は勧告前の22カ所のまま。いずれも里道上などにあり、利用者が少ない。とはいえ、地元は「廃止は不便を強いられ、もってのほか。遮断機などを設けてほしい」と願う。
JR九州大分支社によると、踏切を改修するには数千万円の費用を要する。「現時点では難しい」とのスタンスだ。
総務企画課は「将来的に第4種の全廃を目指し、自治体と協議を続けている。再発防止に向けた具体的な方針は決まっていない」と話した。
<メモ>
踏切は安全設備の有無で4種類に分類される。県内は▽警報機と遮断機がある「第1種」 345カ所▽警報機のみの「第3種」 14カ所―。係員が遮断機を操作する「第2種」はない。総務省によると、2019年度に起きた踏切事故は、第1種が100カ所当たり0.59件。第4種は1.02件で大幅に上回った。