勝つか負けるかモンテディオ山形!渡邉晋監督による「決意の攻撃サッカー」で、J1昇格プレーオフの大本命へ。

間もなく、戦いの火蓋が切られる。

激戦が続いた2023シーズンの明治安田生命J2リーグも、いよいよJ1昇格プレーオフを残すのみとなった。

プレーオフに出場するのは、東京ヴェルディ(3位)、清水エスパルス(4位)、モンテディオ山形(5位)、ジェフユナイテッド千葉(6位)の4クラブ。25日および26日の準決勝を経て、12月2日の決勝戦で昇格クラブが決定する。

4クラブのうち、唯一ラスト5試合を5連勝で終えたのが5位・山形だ。劇的な展開でプレーオフ進出を決めた山形は、その勢いから昇格の“大本命”と言える。

8連敗など激動だった今季の戦いぶりを振り返りつつ、プレーオフ準決勝・清水戦のポイントと渡邉晋監督の“決意”を考察した。

ラスト5試合の基本システム

まずは、リーグ戦ラスト5試合の基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神は今季も最後尾からチームを支えた後藤雅明で、4バックは右から川井歩、西村 慧祐、野田裕喜、小野雅史という不動のラインナップ。

センターバックは熊本雄太、サイドバックは山田拓巳も控えるが、アクシデントがない限りは不動の4人でプレーオフを戦うはずだ。

ダブルボランチは、攻守をつなぐリンクマンの髙江麗央と精神的支柱&絶対的司令塔である南秀仁のコンビ。小西雄大または藤田息吹が、後半途中から髙江と交代で登場するのが定番の起用法となっている。

トップ下は後藤優介がスタメン、後半途中から高橋潤哉が起用される。どちらもストライカー的タイプであり、特に推進力をもたらす高橋は終盤戦で存在感を示した。

攻撃をリードするウィングは右がイサカ・ゼイン、左は宮城天がファーストチョイス。イサカから横山塁、宮城からチアゴ・アウベスにスイッチする形が“鉄板”だが、左サイドは両者とも好調をキープ。最終節(第42節・甲府戦)ではアウベスがスタメン起用されており、指揮官の選択に注目が集まる。

最前線は今季リーグ戦10得点をマークした藤本佳希、ラスト2試合で連続ゴールを決めたデラトーレが揃う充実のセクション。最終盤でエンジンがかかったデラトーレは、プレーオフのキーマンとなり得る。

激動の今シーズンと渡邉監督のチームづくり

今シーズンのモンテディオ山形は、文字通り激動のシーズンを過ごした。

開幕2連勝と幸先の良いスタートを切ったが、第3節・ジュビロ磐田戦で今季初黒星を喫すると、ここから5連敗。クラブは第7節・水戸ホーリーホック戦後にピーター・クラモフスキー氏の契約解除および渡邉晋コーチの監督就任を発表した。

渡邉体制になっても連敗は止まらず、最終的に8連敗。第10節終了時点でJ3降格圏の21位に沈み、この段階ではJ1昇格プレーオフ進出はおろか、ひと桁順位でのフィニッシュも考えられない状況だった。

その後3度の5連勝を達成するなど巻き返し、最終的に5位でプレーオフ進出を決めたが、良くも悪くも好不調の波が激しいのが山形だ。

今季2度目の5連勝を飾った第31節・ロアッソ熊本戦後にプレーオフ圏内の6位に浮上したが、翌節のFC町田ゼルビア戦で5失点の大敗。第34節の清水エスパルス戦も0-3で落とし、11位へ後退した。

通常ならこの時点でプレーオフ進出が厳しくなるはずだが、逆境に強いのも山形だ。第38節・栃木SC戦からの4連勝で望みをつなぐと、最終節のヴァンフォーレ甲府戦をデラトーレの劇的逆転弾(ゴールシーンは下記動画)でモノにし、今季3度目の5連勝。最終節の勝利でプレーオフ進出を決定させたのは、昨季と同じ展開だった。

では、なぜ山形は好不調の波が激しいのか。大きな要因は、渡邉監督の「攻撃に特化したチームづくり」にある。

攻撃的スタイルを標榜する渡邉監督のベースは、ビルドアップから崩す形だ。センターバックとボランチを軸としたパス交換でリズムを作り、そこから素早く前線のアタッカーたち(特に両ウィング)へ展開して、一気に相手ゴールへ迫っていく。

ビルドアップはあくまでもアタッカーに良い形でボールを供給するための手段に過ぎず、「相手ゴール前でどれだけチャンスを作れるか」という点に主眼が置かれている。

そして、相手がビルドアップを分断しようとハイプレスを仕掛けてくれば、その分敵陣にスペースが生じる。打開力に優れる山形の両ウィングがスペースを謳歌することで、ゴールの可能性は高まる。ビルドアップは「相手のハイプレスを誘発する餌」とも言えよう。

一方、ビルドアップから素早く前線へ展開して攻撃を完結させるため、攻守の入れ替えは激しくなる。つまり、「自分たちにチャンスがある分、相手にもチャンスがある」状況になるため、失点のリスクも高まるのだ。

山形が今季記録した引き分けは、42試合でわずか4。この数字はもちろんリーグ最少だ。

勝ち負けがハッキリしているのは、攻守の入れ替えが激しい点がやはり影響している。渡邉監督が敢えて攻撃に特化している理由については、後ほど詳しく述べたい。

清水との大一番は「前半勝負」の予感大

冒頭で触れた通り、リーグ戦5位の山形がJ1昇格プレーオフ準決勝で戦うのは、4位・清水エスパルスだ。

昇格プレーオフは、「引き分けの場合はリーグ戦年間順位が上位のクラブを勝者とする」レギュレーション。つまり、準決勝で山形が勝ち抜けるには、勝利が絶対条件となる。

今季の清水は、途中就任の秋葉忠宏監督がチームを立て直して上位争いを展開。最終節の引き分けにより自動昇格を逃したが、タレント力はリーグ屈指だ。最終節から約2週間空き、自動昇格を逃したショックからもある程度脱却していることが予想される。

勝利が絶対条件の山形は、相手より多くゴールを奪う必要があるが、そもそも攻撃に特化しているだけに、「勝つしかない状況」はある意味追い風と言える。

もちろん、「引き分けでもOK」かつホームで戦える清水が有利なのは間違いない。山形としては、少しでも早い時間帯に得点することがマストとなる。なぜなら、清水は試合途中で基本システムの<4-2-3-1>から<3-4-2-1>に切り替えるからだ。

清水が3バック(実質5バック)へシフトするのは、後半開始または後半途中のタイミングだ。しかし、最終節の水戸戦では選手たちの自主的な判断により、前半途中から<3-4-2-1>へ移行している。

打開力に優れる山形の両ウィングを封じるために、水戸戦のように前半途中から3バックへ切り替える可能性は十分ある。守備時に<5-4-1>となり、サイドを手厚くケアできる<3-4-2-1>を崩すのは難しい。「引き分けでもOK」というマインドが決断を早くさせるかもしれない。

山形としては、清水が3バックへシフトする前にゴールを奪いたい。先制点が試合のゆくえを大きく左右するに違いなく、前半が勝負になるだろう。

ただ、清水が3バックへ移行しても、得点の可能性が潰える訳ではない。朗報は、攻撃陣が軒並み好調を維持している点。交代出場で流れを変える高橋潤哉、チアゴ・アウベス(または宮城天)、デラトーレの存在は脅威である。

そして、アタッカーたちと同じくキーマンになるのが、指揮官が全幅の信頼を寄せる司令塔・南秀仁だ。

在籍7年目を迎えた背番号18は、気の利いたポジショニングが光る。ビルドアップでは両センターバックの間または横に落ちてポゼッションの潤滑油となりつつ、時に思い切りの良い攻め上がりで攻撃に厚みをもたらす。

最終節の甲府戦では、ペナルティーエリア内へ巧みに侵入してデラトーレの劇的逆転弾をアシスト。元々は攻撃的なプレーヤーだったこともあり、攻撃センスはやはり素晴らしい。清水が構えて守るのであれば、南の攻撃参加が崩しのカギを握りそうだ。

指揮官の“決意”とともにJ1へ!

山形が清水との昇格プレーオフ準決勝に勝利すれば、決勝は3位・東京ヴェルディまたは6位・ジェフユナイテッド千葉の勝者と戦う。

相手が東京Vの場合、今季リーグ戦最少失点(※31失点)と堅守を誇るチームに対し、アウェイの国立競技場で「勝つしかない状況」となる。

一方、千葉の場合は「引き分けでもOK」となり、ゲームプランは大きく変わる。渡邉晋監督がベガルタ仙台時代に共闘した小林慶行監督との対決も話題を呼ぶだろう。

いずれにしても、山形は終盤戦の勢いをプレーオフに持ち込むことが重要となる。攻撃に特化している分、受けに回ることは得意としないからだ。

渡邉監督が攻撃に特化している理由として、仙台時代(※2014年4月から2019シーズン終了まで指揮を執った)の経験が挙げられる。

最後に、2020年10月に刊行された渡邉監督の著書『ポジショナルフットボール実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』(カンゼン)を引用しながら考察していきたい。

監督就任後はクラブの伝統である堅守速攻を踏襲しつつ、徐々にポジショナルプレーを導入し、攻撃サッカーを貫き試行錯誤していく中で最後はJ1残留のために堅守速攻へ回帰した(p.27を要約)というのが、仙台時代の流れである。

特に堅守速攻への回帰については、理想と現実の間で揺れる指揮官の想いが吐露されている。

『(前略)当時は結果を強く強く求めていた中で、現実的に失点を減らさなければいけない。それが間違いなく正解だと思っていました。(中略)私は仙台というクラブでの在籍期間が長く、選手やアカデミーコーチ時代を含めれば、20年近い時間を過ごし、いろいろなものをクラブの中から見てきました。だからこそクラブが置かれた状況、周囲の期待のようなものは理解していたつもりです。本来は、「結果を得るために今これをやらなければいけない」と、周囲に『ポジショナルプレー』と呼ばれた攻撃的なサッカーをスタートさせたはずなのに、いつの間にか「結果を求めるために、守備的なアプローチの量が増えていった」のです。そこは今思えば、もう少し貫きたかった、いや、貫いてもよかった、というのが正直な気持ちです』(p.172)

長年過ごしたクラブのJ1残留のために、自身の哲学を封印して現実路線に舵を切る――。2019シーズンの仙台は最下位に沈んだ時期がありながらも、結果的に11位でフィニッシュ。J1残留という最大のミッションを見事クリアした。

とはいえ、攻撃的なサッカーを「もう少し貫きたかった、いや、貫いてもよかった」というのは偽らざる本音だろう。

仙台時代の経験を踏まえれば、現在の山形が攻撃に特化している理由がうかがい知れる。そこには、「攻撃的スタイルで圧倒する」という渡邉監督の“決意”があるのではないか。

プレーオフ進出には、勝利してとにかく勝ち点3を積み重ねるしかないという今季の状況も、指揮官を後押ししたはずだ。

なお、昇格プレーオフに出場する4クラブのうち、ラスト5試合を5連勝で終えているのは山形のみ。劇的な展開でプレーオフ進出を決めた勢いの面だけで見れば、“昇格の大本命”と言っても過言ではない。

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準決勝を制するのは「オレンジ軍団の意地」か、それとも「山の神の勢い」か。25日にIAIスタジアム日本平(アイスタ)で行われる清水vs山形の一戦は、両クラブのファン・サポーターのみならず、全Jリーグファン必見の好ゲームになるだろう。

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