社説:北の「衛星」発射 緊張高める挑発やめよ

 北朝鮮が「軍事偵察衛星」の発射を強行した。国営メディアは打ち上げが成功し、地球周回軌道に進入させたと報じた。

 日本政府によると、発射後に分離した一部が沖縄本島と宮古島の間の上空を通過した。軌道投入の成否を含め、詳しく米国や韓国と分析を進めるとしている。

 いかなる弾道ミサイル技術を使った発射も、国連安全保障理事会の決議違反である。日本のみならず国際社会の安全を脅かす挑発であり、断じて許されない。

 北朝鮮の衛星打ち上げは、失敗した5月、8月に続いて3回目だ。日本などの中止要求を無視し、自ら通告していた期間に入る前に発射する傍若無人ぶりだ。

 日本政府は、全国瞬時警報システム(Jアラート)を沖縄県に発し、住民に避難を呼びかけた。落下物などの被害は確認されておらず、「破壊措置命令」に基づく自衛隊の迎撃は行われなかったが、重大な被害が生じかねない行為である。

 日米韓は北朝鮮担当高官による電話会談を行い、緊密な連携を再確認した。韓国政府は、衝突回避のための南北軍事合意の一部効力の停止を決め、軍事境界線付近での監視活動を強めるとした。「最後の安全弁」とされてきた合意が形骸化し、地域の緊張が高まることが憂慮される。

 北朝鮮は2021年に発表した国防5カ年計画で、米韓の攻撃に備えた常時監視態勢の構築を掲げた。今後も偵察衛星の発射を続けると見られている。

 懸念されるのは、ロシアとの軍事協力である。過去2回の失敗後、金正恩朝鮮労働党総書記はロシアのプーチン大統領と会談。ウクライナ侵攻への砲弾供与の見返りに、ロシアの助力で技術改良したとの見方があり、脅威の増大が現実味を帯びている。国際非難を浴びる両国の提携は、さらに孤立を深めるばかりであることを自覚すべきである。

 相次ぐ北朝鮮の挑発行動は、ウクライナ問題などを巡って深まる国連安保理の機能不全が背景にある。米欧とロシア、中国の分断から決議違反に一致して対処できないと北朝鮮に見透かされており、看過できない。

 岸田文雄政権は、日本人拉致問題と核・ミサイル開発など諸課題の包括的な解決を掲げている。緊張緩和に向けて関係国との情報共有と連携をいっそう強め、あらゆる糸口を探って対話解決に手を尽くさねばならない。

© 株式会社京都新聞社