社説:グループホーム 「脱施設」へ質と量を整えよ

 知的障害者や精神障害者向けのグループホーム(GH)を愛知県など12都県約120カ所で展開する大手運営会社「恵(めぐみ)」(本社・東京)が、障害者から食材費を過大に徴収していた問題を受け、厚生労働省が特別監査に踏み込んだ。

 恵が運営する事業所では、不正受給の疑いや本人同意を得ず支援計画書を作成した疑いも浮上している。武見敬三厚労相は「経済的虐待などにも該当する可能性がある」と述べた。

 知的障害がある人は、被害に遭いながらも声を上げるには適切なサポートが要ることが多い。利用者の声を丁寧に聞きとり、実態解明を急ぐべきだ。

 GHは少人数で共同生活を送る家であり、「脱施設」の中核とされる。利用者は時に外食を楽しんでもよく、その人らしく地域で暮らすことが趣旨だ。

 かかった実費のみを徴収すべきなのに、恵の系列事業所は過大な月額を定額で事前徴収していた。利益を優先した組織的な不正の疑いが強まっている。

 急成長した恵が展開したGHは厚労省が2018年に制度化した「日中サービス支援型」。この3年で4.6倍となる全国約840カ所に増えた。利用者1万人の6割が知的障害者だ。うち約1割が恵の運営で、京都や滋賀でも開設予定だった。

 元社員らの証言では、社長らは利益重視で、最も重要な「支援の質」は置き去りにしてきたという。恵以外のGH事業者でも問題が出ている。

 それでも事業が拡大した背景には、障害者を受け入れる環境や体制が乏しい実態がある。

 国連は障害者権利条約に基づき昨夏、日本政府に対し「親元やGHでの生活のように、障害者本人がどこで誰と生活したいかを選択する権利がきちんと保障されていない。『脱施設』の国レベルの計画や法的枠組みがない」との所見を出し、障害者が生活の選択や管理ができるよう改善を求めた。

 今も12万人以上の障害者が施設に入所し、国際潮流の「脱施設・地域移行」が進まない。GH利用者の4割以上が将来の1人暮らしを希望する一方、アパートなどでの自立に向けた支援には7割のGHが取り組んでいないとの全国調査もある。

 先進地では、知的障害のある人が金銭管理や買い物サポートを受けつつ、施設や家族の元を離れて暮らす実践が増えている。京都市内でもわずかだが、動きが芽生えている。

 居住の場を提供するサービスと、食事介助や見守りなどの提供者を分離する「長屋型」などが普及すれば、障害者の自己決定の幅が広がるだろう。閉鎖的になりがちな支援の透明性を高めることにもつながる。

 GHを普通の家に近づけ、その人らしい暮らしを送る場にするため、障害者福祉の在り方を根本から見直す必要がある。

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