坂の街の今

 かつてランドセルを背負って駆け上がっていた長い長い階段が、コンクリートの壁のように迫って見えた。何度も足を止めては息を整え、また一歩-▲長崎駅周辺で大規模な再開発が進む中、読者から「変わらぬまちも見てほしい」との電話をいただき、少年時代を過ごした長崎市の斜面地を歩いた。戦後の高度成長期に発展した坂の街は岐路にさしかかっているという▲車が入れない斜面の密集地は生活や防災面で課題が多く、高齢化や人口流出を招いてきた。そこで市は1990年代半ばから斜面市街地の再生事業に着手し、道路の新設や老朽住宅の建て替えを目指した▲ところが用地買収が難航。30年たった今も事業は予定の50%程度しか進まず、縮小を検討中だ。確かに斜面地の奥には古い家屋がたくさん残り、昭和の“行く末”を思わせる雰囲気だった▲この間、住まいも公共交通も、病院やスーパーもまとまっているコンパクトシティーのまちづくりが始まった。だが高齢者らの移住は容易ではなく、これも息の長い取り組みになる▲近年、住民らの協力で階段や歩道を少し広げ、車が通れる程度の道に変える工事が各地で進んでいる。用地買収もなく、短期間での完成がメリット。こうした官民の創意工夫で一歩ずつでも住みよい地域に生まれ変わるといい。(真)

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