泊まるだけで社会貢献になる!? 秋葉原のゲストハウス支配人が目指すもの【インタビュー前編】

キャリアが多様化している現代、「社会貢献になる仕事がしたい」と考える人も増えています。

一方で、「そもそも社会貢献につながる仕事って?」「なんだか難しそう...」と具体的な一歩を踏み出せずにいる人もいるのではないでしょうか。

【全画像】ゲストハウス「Cocts Akihabara」施設と中の人

「日々の選択を少し変えるだけで、世界を変える大きな歯車の一部になれます」

柔らかい笑顔でそう語るのは、ソーシャルグッドなゲストハウス「Cocts Akihabara」(コクトス アキハバラ)で支配人をしている小泉秋乃さん。

難民キャンプでのボランティアをはじめ、いろいろな国と地域へ足を運んできた小泉さんは今、社会課題について学ぶ一歩を踏みだせる空間づくりに取り組んでいます。

10月中旬、Cocts Akihabara へと足を運び、小泉さんの経歴や実践中の「ソーシャルと仕事を天秤にかけない働き方」について話を聞きました。

コンセプトは「誰かのために、を日常に」。一般的なゲストハウスとの違い

──今日はよろしくお願いします。早速ですが、そもそもゲストハウスとはどんなものなのでしょう?

ゲストハウスはホステルとも呼ばれていて、一般的な宿泊施設よりも共有スペースが多いことが特徴です。

他のゲスト(宿泊客)と大部屋を共用するドミトリータイプの部屋が多く、キッチンやシャワーなども主に共用型です。Cocts Akihabaraでは個室も用意していますよ。

共用部屋といっても、1つの部屋に複数の2段ベッドが用意されており、カーテンがあるのでプライバシーはある程度守られていますし、枕元には照明やコンセントもついていて快適です。

時期にもよりますが、ビジネスホテルよりもお手頃価格で泊まれるのも魅力ですね。

清掃スタッフたちが毎日ピカピカにしてくれていることもあり、木材の温かさと洗練されたモダンな雰囲気が調和する空間になっています。

──共有スペースが多い宿泊施設。いろいろなコミュニケーションが生まれそうですね。

そうなんです。ゲスト同士での交流はもちろん、スタッフもフレンドリーな人たちがたくさんいます。

海外からのゲストもすごく多いので、海外に来たような雰囲気もあるかもしれません。出張で都内に来る方が「ビジネスホテルじゃ味気ないから」と選んでくださることもあるんですよ。

ラウンジで黙々と作業をしたり、出会ったばかりのゲストやスタッフと会話を楽しんだり、どんな人でも楽しめる宿泊施設です。

──Cocts Akihabaraのコンセプトは「誰かのために、を日常に」ですね。一般的なゲストハウスとはどのような違いがあるのでしょうか?

Cocts Akihabaraは、自分の持つ「パワー」に気づいたり、社会貢献への第1歩を踏み出したりするためのヒントを散りばめたホステルです。

環境問題や難民問題、人権問題など、社会には問題が山積みですが「自分はちっぽけすぎる」と腰が引けてしまうことがありますよね。

1人で世界は変えられませんが、日々の選択を少し変えるだけで、誰もが世界を変える大きな歯車の一部にはなれるんです。

例えば、私たちが実践しているプロジェクト”STAY FOR TWO”では、1回の予約につき10円が、いろいろな社会貢献団体に寄付されています。

小さな金額かもしれませんが、ゲストが来てくれる限り、その支援はしっかりと続いていく。泊まることが誰かのためになる支援プロジェクトです。

2022年には、認定NPO法人 難民支援協会様より難民の方を紹介していただき、支援金を活用して、Cocts Akihabaraでの滞在を提供しました。

共に暮らし、当事者と交流することで、スタッフからもゲストからも、難民問題が自分ごとになったという声が寄せられました。

その他にも、LGBTQ+フレンドリーな空間づくりも大切にしています。

私自身、大学生の頃から東京レインボープライドに毎年参加していたり、身近な人にも当事者がたくさんいたり、常に身近なトピックだったので、Cocts Akihabaraでも性的マイノリティのためのセーフスペースを体現したいという想いがあるんです。

オールジェンダートイレの設置やチェックインフォームの性別欄の工夫に加え、ジェンダーやセクシュアリティに関する雑誌を置いたり、スタッフの研修に力を入れたりしています。

また、フロントでは竹歯ブラシと歯磨きタブレットのセットを販売していたり、シャンプー類や清掃に使用している洗剤がエコフレンドリーだったり、言われなければ気づかないような些細なことを含み、何気ないところも徹底してこだわっています。

──こういった取り組みは、社会について話すきっかけにもなりそうですね。

はい。嬉しいことにゲストから「これにはどんな意味があるの?」「ここはどうして社会性に力を入れているの?」と質問されたり、「すごくいいね」と声をかけられることもあります。

海外から来たLGBTQ+当事者の方が「日本はまだLGBTQ+に関する知識があまり浸透していないと聞いていたけど、ここには話せる人がいて安心した」と話してくれたこともありました。

ゲストハウスは、世界中から多様な人々が集まる場所。誰も取り残さないをモットーにしていますし、みんなが安心できて、議論や対話、そして気づきのきっかけにもなるような場所づくりを心がけています。

もちろん、シンプルに「ホテルよりも安かったから」「おしゃれだったから」と選んできてくださる方もいますし、どんなゲストも大歓迎ですよ!

「どうして生まれた国が違うだけで、あなたはガラスの向こう側にいるの?」

──社会貢献と仕事を天秤にかけないキャリアは、苦労や工夫も多いかと思います。そもそも社会問題に目を向けはじめたきっかけはあったのでしょうか?

ターニングポイントは高校時代でした。学校を休みがちになってしまい、初めて自分が「社会から取り残される側」になったんです。

それまでの私は、勉強ができて先生からも褒められるような優等生で、いわゆるレールに乗った人生を歩んできました。

しかし、学校に行けなくなり、初めてそのレールを外れたことで「そもそもなぜ、取り残される人が生まれるんだろう」と考えるようになり、社会問題に目が向くようになりました。

本格的に難民支援に携わるようになったのは、大学生のとき。難民支援をしている教授と一緒に入管施設に行き、難民の方と面会する機会がありました。

そこで出会った同い年の女の子に「わたしたちは同い年なのに、どうして生まれた国が違うだけで、あなたはガラスの向こう側にいるの?」と聞かれたんです。何も言えませんでした。

「たまたま私は生まれた国が安全だっただけ」という事実はあまりにも残酷です。

この一言がきっかけで、私は特権層であり、だからこそやるべきことがあると気付かされました。

──その後、海外の難民キャンプに渡った。

はい。各国の難民キャンプの現場を知ろうと思い、大学を休学してパレスチナに渡りました。ゲストハウスとの出会いもこのときでした。

難民キャンプでのお仕事は、ゲストハウスのオーナーさんが紹介してくれたんです。

パレスチナでは難民キャンプで子供たちにアートや歌を教える活動をして、その後トルコやギリシャ、ドイツやフランスも訪れて、国境付近で難民の方たちの保護や生活支援を経験しました。

国ごとの状況の違いやニーズの違いを学ぶことで、日本でもまだできることがあると感じ、大学卒業後もソーシャルセクターなどの社会問題への取り組みを主軸としたキャリアに進みたいと思うようになりました。

しかし、そこで大きな壁にぶち当たってしまったんです。

インタビューは 後編 へと続きます。

(ウェルなわたし/ 黒崎 侑美)

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