私立中学進学や住宅購入・・・「2,000万円貯めたわが家はきっと大丈夫」の罠

これから住宅の購入と、二人のお子さんが中学校から私立へ通うことを想定しているAさん(38歳)。これまで貯めてきた貯金が2,000万円あり、今の家計状況で問題なく乗り切れるかどうかを相談しに、ファイナンシャルプランナーの筆者のもとに相談に来られました。Aさんのご家庭の家計状況と今後の対策についてみていきましょう。


【相談内容】

二人の子どもたちには、中学校から私立へ通って欲しいと思っており、今後住宅を購入する予定もあります。ある程度まとまった額の貯金もあるため、問題なく乗り切れるのか、やはり資産運用などの対策が必要なのかどうかが気になっています。

【相談者プロフィール】

・性別:女性

・年齢:38歳

・職業:パート

・家族構成:夫(39歳・会社員)、7歳と4歳の子2人

・住居:関東(賃貸)

【収入】手取り収入合計:年間828万円

・毎月の世帯の手取り金額:55万円(夫の月収47万円、妻の月収8万円程度)

・年間の世帯の手取りボーナス額:156万円

・児童手当:特例給付として年間12万円(月5千円×2人)

※今回のケースは年収975万円。所得制限を少し超える世帯です。

【支出】

・毎月の世帯の支出目安:45万円

(内訳)

・住居費:7万円

・食費:10万円

・水道光熱費:2万5千円

・教育費:6万円

・保険料:3万5千円

・通信費:1万5千円

・車両費:2万円

・お小遣い:4万円

・その他:8万5千円(日用品、衣類・美容、趣味娯楽費他)

【世帯の資産状況】

・現在の預貯金総額:2,000万円

年間貯蓄額:200万円(毎月10万円+ボーナス80万円)

・現在の投資総額:なし

・現在の負債:なし

相談者の方の現状をもとに、ご家庭の家計状況と今後の対策についてみていきましょう。

貯蓄があれば資産運用は必要ない?

毎年着実に貯蓄を増やしてきた相談者さま。貯金も2,000万円あることで、それなりに安心感をお持ちです。資産はすべて現預金でお持ちであり、ご夫婦ともに資産運用はされていません。

メディアやSNS等でNISAについて目にする機会が増え、何となくやった方がいいのかもしれない、と感じることはあるそうです。しかし、いざ自身で取り組むとなると、資産運用についてよくわからないのもありますが、「自分たちにとって本当に必要なことなのか、あまり必要性を感じられていない」とお話されていました。順調に貯蓄を増やしてきた方ほど、資産運用を行う必要性をあまり感じられないかもしれません。

多くの方にとって資産運用を行うメリットは大きい傾向にありますが、必要性の有無は家計の状況やライフイベントによって異なります。相談者さまのケースでは今後資産運用などの対策が必要なのかどうかを判断するために、ライフプランを作成し、今後の家計の状況をみていきましょう。

ライフプランで将来かかるお金の見える化

お子さんの進路予定や住宅購入予定はまだ具体的に決まっていない、とのことでしたので、ヒアリングをもとに下記の条件を加味したライフプランを作成しました。

・進路予定:小学校まで公立。中学、高校、大学共に私立(第一子:文系、第二子:理系)。大学は自宅から通学
・習い事:小学校の間は1人につき2個。中学受験のため塾を想定
・住宅購入予定:新築マンション 購入金額6,000万円 住宅ローン借入額6,000万円 35年ローン 元利均等返済 変動金利0.6%を想定 月額負担額158,000円
・自動車買い替え予定:2回

ライフプランを作成し、見えてきたのが貯蓄額に対する影響です。住宅ローンの返済が始まると、住居費は2倍以上に増えます。これまで年間約200万円のペースで貯蓄できていましたが、年間貯蓄額は100万円弱に減少します。

教育費負担の影響も大きいご家庭です。小学校6年間の学校外費用(習い事費と塾費用)として、1人当たり約250万円かかる想定としました。中学・高校と私立へ進学する場合、公立へ通う場合と比較してかかる教育費は約2.5倍、1人につき約450万円が上乗せで必要になると想定されます。

上のお子さんが私立中学へ進学すると年間収支はマイナスへ転落し、貯蓄の取り崩しでカバーしていくようになります。取り崩し期間は上のお子さんが大学を卒業するまでの10年間続き、年間の取り崩し額は最大で約200万円となります。

もともと貯金が2,000万円あったため、家計全体として赤字へ転落することなく、二人のお子さんは大学卒業を迎えることができます。しかし、下のお子さんが大学を卒業した時点で貯金額は半分以下に減少しています。

実は潜んでいる破綻リスク

教育費がかかる期間を乗り切ることができれば、そこから老後資金の備えを始めればいいのではないか、退職金で貯蓄額も回復するのではないか、と考えている方も多いでしょう。実際には、定年以降は収入が減少する一方で住宅ローン返済の負担は続くことから、思ったよりも貯蓄は増えていきません。

今回のケースでは、このままでは73歳で貯蓄が尽き、家計は破綻してしまうことがわかりました。要因の一つとして、老後への備えを含めた長期的な資産形成の対策が取られていないことが考えられます。このように、長期的な視点でライフプランを作成することにより、本当に問題がない家計状況なのかが見えてくるのです。

今からの資産形成が将来大きな差に

子育て世帯にとって、目の前の住宅購入や教育費に意識が向きがちで、老後資金はまだ現実問題として捉えづらいかもしれません。けれど、並行して長期的な資産形成を行うことで、将来大きな差が生まれます。

資産形成を行う方法として、つみたてNISA(2024年以降は新NISA)、iDeCo、保険などいくつかの選択肢があります。どの方法を選択するかは各家庭の状況によりますが、住宅購入や教育費などのライフイベントに応じて資金利用の機会が多い子育て世帯にとっては、NISAを使った資産運用が比較的融通が利きやすくお勧めです。

今回のケースでは、教育費と住宅費は手元の資金である程度目途がついているため、資産運用の主な目的は老後資金です。

資産運用を初めて行う方は、積立投資から始めるのがいいでしょう。運用期間を長く取れることから、投資対象は比較的リスクを取って運用益が期待できるものを選択することも可能です。

ご主人が定年予定の60歳まで月3万円の積立投資を行い、年利5%で運用できたと想定します。すると、定年以降に積み立てた資産を取り崩していくことで老後資金の不足を補填し、家計破綻を回避することができます。

また、資産運用には資産価値を守る側面もあります。今後もインフレが続いていく可能性があり、預貯金のみで資産を保有している場合、インフレとともに資産価値が減少するリスクが高くなります。せっかくこれまで貯めてきた貯蓄の価値を維持するためにも、資産運用により資産を守る対策を行うことも必要です。

ライフプランで課題を具体化した上で手段を考える

ただし、とにかく資産運用を始めればいい、というわけではありません。資産運用がご自身のライフプランの課題解決に繋がっていることが大事なのです。

2024年から始まる新NISAでは、これまでよりも資産運用の選択肢の幅が広がることから、どんなプランで資産運用を行うかで結果には非常に大きな差が生まれます。だからこそ、資産運用の目的を具体的にした上で選択肢を選ぶ必要があります。

今回のケースのように、現在の2,000万円という貯蓄額だけを見て安心できる家計かどうかを判断するのは危険です。なぜなら長期で見ると破綻リスクを抱えているのに、ご相談者様はそのリスクにすら気付いていないからです。子どもの教育費や住宅購入など、ライフイベントを控えている方は陥りがちな罠なので、気を付けましょう。

まずはライフプランを作成して長期的な視点を持つことが大切です。そこからわかった課題の解決手段として資産運用があります。課題解決に繋がる対策を実際に行っていくことで、本当の安心感が得られるでしょう。「きっと」大丈夫と思っている家計から、一歩進んで「確実に」大丈夫な家計を目指してみませんか。

ご家族の叶えたい未来と安心感を確かなものとするために、まずは土台となるライフプランを専門家であるFPと作成することで自分では気づけないリスクに気付く、より効率的な対策が見つかるなどの効果があるでしょう。

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