第三の人生は浜焼き 県庁マン→のと鉄道社長、山下さん

浜焼きコーナーで新鮮な魚介類を提供する山下さん(左)=七尾市の能登食祭市場

  ●七尾・食祭市場で奮闘「能登の味伝えたい」

 今年6月にのと鉄道社長を退任した元県職員山下孝明さん(73)=七尾市中島町浜田出身=が、同市の道の駅「能登食祭市場」にある浜焼きコーナーで奮闘している。半世紀にわたって離れていたふるさとに戻り、「観光の最前線に立ちたい」と未経験の接客業に飛び込んだ。肩書がないアルバイトだが、観光客に能登の魅力を伝えながら、新鮮な魚介類を提供する「第三の人生」に駆け回っている。

 山下さんは県職員時代に新幹線・交通政策課長や県工業試験場長に就き、北陸新幹線の土台づくり、石川の産業振興を担った。2011年3月に県職員を退職した後はのと鉄道社長として12年間、能登の交通維持に奔走し、今年秋の叙勲で瑞宝小綬章を受けた。

 社長退任後は新しい職に就くことは考えていなかったが、観光誘客で連携してきた能登食祭市場に退任あいさつで訪れた時に転機が訪れた。

 市場の名物「浜焼きコーナー」で目の当たりにしたのは人手不足だった。亡き父がカキ漁に従事し、弟が焼きガキ店を営んでいる「カキ一家」である山下さん。以前から観光客にじかに接する仕事にも興味があったこともあり、「観光の最前線を助けられれば」と一念発起して市場を運営する香島津にアルバイト勤務を申し出た。

 能登島野崎町に居を構えた山下さんは8月以降の週4、5日、浜焼きコーナーに立ち、魚介類の提供から網の交換、清掃までを担当している。仕事を始めて3カ月余だが、同僚から親しみを込めて「山ちゃん」と呼ばれ、村本能久駅長(50)は「真面目、積極的で心強い。要職に就いていたことをみじんも出さず、経験を生かして市場を盛り上げてくれる」と喜ぶ。

 山下さんは観光客に気軽に話し掛け、能登の名所を案内したり、おすすめの店を紹介したりしている。観光客の「ありがとう」の一言で疲れが癒やされるといい、「体力が続く限りはふるさとの自慢の味や見どころを観光客に伝えたい」と笑顔を浮かべた。

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