1970年に開催された、東京モーターショーで発表されたのが、マツダの「RX500」です。世界にたった1台のこの幻の車を再び走らせようと、男たちが立ち上がりました。
RX500は1970年に開催された東京モータショーでベールを脱いだロータリーエンジンを搭載したスーパーカーです。車体のカラーリングを変えながら、世界中のモーターショーを渡り歩きました。
広告塔の役目を終えたあとは、量産されることはなく、世界には1台だけ。マツダの社内にある倉庫で眠り続けていました。いま、ヌマジ交通ミュージアム(広島市安佐南区)で保管されています。
ミュージアムに来たのは2008年です。翌年に修理されイベントなどで走る姿も見ることができました。しかし2022年1月、部品が劣化し、走ることができなくなりました。
ヌマジ交通ミュージアムの田村規充さんは、動かせる状態で保存していきたいと考えていました。そして、貴重なこの車を次世代に伝えようと立ち上がります。
修理の依頼を受けたのは、数々の古い車の修復を手がけてる伊藤英彦さんです。車体を調べていくと、ロータリーエンジンを直すと走れる可能性があることが分かりました。そこで、広島マツダOBでエンジニアの河尻隆行さんにも協力を呼びかけました。
河尻隆行さん
「エンジンはかなり損傷していたので、日本中に知り合いに、特殊な作業をしてくれる友人たちがいるので、助けてもらって組み上げた」
エンジンが車体に搭載され、ケーブルを接続。燃料を入れると、いよいよエンジン始動です。
エンジンの音を聞きながら、エンジンオイルや回転数を調整していきます。新たなエンジンが組み込まれました。
8月、「RX500」が久しぶりにヌマジ交通ミュージアムに戻ってきました。この日は走行テストが予定されていました。
しかし…。クラッチが故障しているのが、発覚。この日は走ることなく展示場へと戻ることになりました。
ヌマジ交通ミュージアム 田村規充さん
「紆余曲折はありますので、これまでも、ちょっとずつ皆さんの力を借りて克服してきた。今回も早めに対応できるようにしていきたいと思います」
ここからは展示されている状態で修理を行う必要がありました。さらに車体が古いこともあり、代替の部品が見つからず作業は難航しました。それでも、2か月が過ぎ、走行テストができるまでにこぎ着けました。
ヌマジ交通ミュージアムの敷地内で、慣らし運転が行われます。今回は、無事に動くことが確認できました。
そして、いよいよサーキットコースへ向かいます。この日、たまたまサーキットに居合わせた人たちからも注目が集まります。
運転をするのは、車体の修復を行った伊藤さんです。伊藤さんや、エンジンの修復に携わった河尻さんも見守る中、RX500がサーキットコースへ。
エンジンの調子も良く、サーキットを20周ほど走りました。運転した伊藤さんからも笑顔が見えました。
伊藤英彦さん
「やわらかいというか、動きがすごくゆっくり動く感じ。ちゃんと動かせたということが貴重なこと」
田村さん、河尻さんも一安心の様子でした。
河尻隆行さん
「安心しました。軽快走っている音も聞いて。よかったと思います」
ヌマジ交通ミュージアム田村規充さん
「ようやくここまで来たなと。ここまでスピードを出して、本格的に走るのは初めて。この車を伝えていく担い手の人達にもぜひ見てもらいたい」
世界にたった1台しかない、幻の車「RX500」に再び命が吹き込まれました。
ヌマジ交通ミュージアムでは、RX500を走らせるイベントを2024年に開催することを検討しているということです。