「コンプライアンス」が先か「ハラスメント」が先か…「不正を起こさない」ために企業が持つべき “正しい問題意識”とは

ハラスメントとコンプライアンスの管轄が社内で異なることが多いことも弊害に(IYO / PIXTA)

いかなる企業も、いまやコンプライアンスを遵守することは“世界標準”。そう認識していながら、日本ではいまだ古い価値観を振りかざし、組織や会社を貶める愚行を働く企業人が絶滅することはない。

本連載では、現場でそうした数々の愚行を目にしてきた危機管理・人材育成の4人のプロフェッショナルが、事例を交えながら問題行動を指摘し、警告する。

第4回は、大手都銀を経て、経営コンサルタントへ転身した、ファイナンスや人事制度構築等のプロ・二野瀬修二氏が「コンプライアンス」と「ハラスメント」の混同が引き起こす、不正発生のメカニズムについて解説する。(【第1回】 【第2回】 【第3回】

「コンプライアンス」「ハラスメント」。この2つの言葉が世の中に認知されて久しい。だが、企業活動において、この2つが実は密接に関連していることを意識することは少ないのではないのだろうか。

まずは、コンプライアンスに関して問題のあった事例をみてみよう。 【性能試験の不正行為】
機器メーカーにとって製造機器の性能試験は非常に重要であり、また消費者にとって性能はその機器を評価するための決定的な要因となる。そこで、競合他社との競争において、その優位性を主張するため、性能データを操作。具体的には試験機器に特殊な設定を行い、また試験条件も操作し、これにより試験機器は実際よりも高い性能を示した。結果、当社は競合他社よりも性能がすぐれているかのように見え、消費者にとって誤った選択を促した。

この事例は一見すると、社員のコンプライアンスの理解や周知が不足したことで引き起こされたように思われるかもしれない。しかし、なぜそのような違反に至ったのかをより深く、企業風土、職場の状況、社員の心理面まで探っていくと、業績面での過度なプレッシャーや、無理なコスト削減などパワハラをはじめとするハラスメントがその背景にあることが見えてくる。

この企業のケースに当てはめると、本製品シリーズは、もともと競合他社対比、性能では劣勢の印象が市場に根付いていた。そのため、それを払拭するべく、経営陣が当該部門に対して、性能数値に「達成目標」と呼ばれる、いわばノルマを設定。無理やりにでも市場評価を上げるべく指示したようである。

つまり、業績面での過度なプレッシャー、パワーハラスメント等により、やむなく、不正行為を行ってしまった。逆に言えば、ハラスメントによって、遵守されるべきコンプライアンスが無視されてしまった。より正確に言えば、法令順守どころではない「圧」が社員を不正に走らせたといえるのだ。

きちんと認識されていない「コンプライアンス」と「ハラスメント」の関係性

「コンプライアンス」に対しては、社内で相応に整備・周知している企業でも、「ハラスメント」に対しての認識が希薄で、結果的に守るべきルールを守れていないーー。こうした企業は意外に多い。なぜか。それを解説する前に、改めてコンプライアンスとハラスメント、それぞれに触れておこう。

「コンプライアンス」とは、法律、規制、業界標準、内部規制、倫理規定等の遵守を意味する。コンプライアンスの目的は、企業や組織が法的なリスクを最小限に抑え、倫理的な標準を維持し、業務プロセスや活動を透明かつ適法に遂行することといえる。

一方、「ハラスメント」とは、一般的に、相手のおかれている状況や環境に対する無知や無理解などから生じる、いじめや嫌がらせ、と表現されている。ハラスメントの代表例であるパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させるもの、とされる。

ここまでみてもまだ、この2つが直接、関係しているようには見えないかもしれない。事例のとおり、コンプライアンス違反とはあくまで、「法的に〇〇に違反した」、という風に受け止められるからだろう。

なぜコンプライアンスを整備・周知している企業でも不正が起こるのか

このように2つが一見無関係に見えることが、”コンプライアンス問題”の解決を難しくしていると筆者は捉えている。なぜなら、企業によっては、ハラスメントは総務系の部署の所管、コンプライアンスは法務系部署の所管であることがある。その場合、ハラスメントは総務系の部署が社員に周知、コンプライアンスは法務系の部署が社内周知、と「コンプライアンス」と「ハラスメント」が一つの企業内で別で々の事象として扱われることも珍しくないのだ。

筆者は、企業研修で講師を務めることも多い。その際は企業の研修担当者とすり合わせたうえで、コンプライアンス研修のプログラムにハラスメントの事例を盛り込むことがある。その逆もしかりである。

そうすることにより、ハラスメントが企業活動にどう影響するのか、コンプライアンスにどう関係するのかを従業員に総合的に理解してもらうよう努めている。企業活動の実態に即したコンプライアンスの意識を高めるには、一つの事象を複合的にみることが重要であり、その結果として、よりよい企業経営につながることが望ましい姿と言えるだろう。

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