約15万円近くの差も…正社員、非正社員、性別によって賃金はどの程度違う?

「日本の会社は、重層的な身分制度で成り立っていて、差別がまかり通っているのが当たり前」。

これは、橘玲著の『不条理な会社人生から自由になる方法』のなかで述べられていることです。まさに我が意を得たりという内容でした。では、実際にどのくらい差別があるのか、厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査結果の概要」の数字を参考にしながら説明をしていきます。


平均賃金が約10万円も少ない女性差別

日本企業はいくつもの差別を内在しながら成り立っているのです。これはもはや身分制度と言ってもいいでしょう。まずは、男性と女性という身分制度についてです。この男女差別が、当たり前のようにまかり通っているのも日本の雇用の特徴でしょう。

世界経済フォーラムが公表している「ジェンダーギャップ指数」(2023年)では、前年より9ランクダウンして、世界146ヵ国中125位で、G7では圧倒的に最下位です。韓国、中国よりも下です。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査の概況(令和4年)によると、日本において一般労働者の平均賃金は、31万1800円です。男女別にみると男性は34万2000円に対し、女性は25万8900円で、女性の方が約8万円も低いのです。男性と女性が同じ仕事をしていても、女性の賃金が安いというのは、まったくおかしな話です。

正社員と非正規社員の差別は、平均11万円の差

次の身分差別は正社員と非正規社員です。正社員と非正規社員では、同じ仕事をしていても給与が違います。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査の概況(令和4年)によると、正社員の平均賃金が32万8000円に対して、非正規社員の平均賃金は、22万1300円となっています。約11万円もの差が付いています。さらに男女比でいうと男性の正社員は35万3600円に対し、非正規社員は24万7500円、女性の正社員は27万6400円に対し、非正規社員は19万8900円です。

男性正社員と女性非正規社員の差は、なんと約15万円です。もし、男性正社員と女性非正規社員が同じ仕事をしていたとすると、給与の差は能力ではなく身分の差というほかありません。

画像:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査結果の概要」

その上、男性の正社員の場合は、年齢が上がれば給与も上がる山方のカーブになっていますが、非正規社員には、年功序列は当てはまらないでしょう。よって平坦なカーブを描いています。それどころか女性の非正規社員の場合は、もっと残念なカーブで、まるで水平線に近いカーブですね(若干カーブは波打っていますが…)。

たとえ正社員であっても女性の場合には、ほとんど変わらないのが現実です。年功序列は、男性の正社員にしか当てはまらないのです。このように「同一労働同一賃金」とは、ほど遠いのが日本の雇用でしょう。

日本には本当の意味での労働組合がない

「同一労働同一賃金」は、日本ではピンとこないかも知れません。

たとえば欧米においては、コンビニエンスストアの店長ならば、仕事は同じですので、賃金も同じなのです。つまり、セブンイレブンの店長、ファミリーマートの店長、ローソンの店長は、ほとんど同じ賃金なのです。欧米においては産業別労働組合なので、業界団体と産業別労働組合との交渉で決まっています。ですので、一社だけ店長の賃金が大きく違うということはないのです。

一方、日本は企業別労働組合が中心です。ですので、賃金は会社が決めることになります。もちろん、企業としては労働賃金が安いと競争力がつくので、できるだけ賃金を低く抑えたいです。当然そう考える会社が多いです。日本が差別的な賃金制度になっているのは、こういった影響もあるのでしょう。

「人事」「賃金」を決めるのが会社になっているのですからこのままでは、日本において、同一賃金同一労働になることは難しいところがあります。労働問題に詳しい昭和女子大学の木下武男名誉教授は、「日本には本当の意味で労働組合はない」と言っています。

さまざまな差別が重層的にある

他にも身分制度はあります。「親会社」と「子会社」です。子会社で働いている親会社の人と子会社の社員とは給与が違います。もちろん同じ仕事をしていても違うのです。親会社から来た人だから仕方がないというのは、親会社・子会社に身分制度があるからでしょう。

もっといえば、日系企業で海外に進出している場合は、「現地採用」「本社採用」という身分制度も存在します。これらの差別が重層的にあるのが日本企業なのです。

定年制度は、年齢差別になる

「定年制度」という年齢の差別もあります。60歳になると「定年制度」が理由で解雇されるのです。能力などは、一切考慮されません。定年という理由で解雇になり、たとえ再雇用になっても非正規社員としての雇用になることが多いでしょう。

雇用においては、年齢・性別によって差別をしてはいけないという建前なのですが、実際には年齢や性別による差別は歴然とあります。

アメリカやEU諸国では、年齢差別の禁止が法制化されています。ですので、基本的に年齢を理由に解雇することはできません。とくにアメリカでは定年制は禁止されていて、従業員個人の意思でリタイアの年齢を決められます。

日本の雇用制度は、メンバーシップ型の雇用という日本独特のものがあります。メンバーシップ型の特徴としては、職務を限定しない雇用形態で企業が採用して、人事権も賃金を決めるのも企業なのです。

「ジェンダーギャップ」「同一労働・同一賃金」など是正の声は上がっていますが、なかなか進んでいないのが実情です。だからこそ、差別的な身分制度があることをしっかりと認識しながら、議論していく必要があると思います。

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