悲願実現へ 森岡毅氏の熱意と狙い【1】 沖縄・新テーマパークの名称は「JUNGLIA(ジャングリア)」

 「JUNGLIA(ジャングリア)」。森岡毅氏率いるマーケティング会社「刀」が、沖縄本島北部で建設中のテーマパークの名称を発表した。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)時代の構想から10年超。東京都内で会見した森岡氏は、悲願の実現に向け、熱く語った。会見で明らかになった概要と、これまでの取材から、新テーマパークの戦略を解き明かす。連載1回目は、いくつもの苦境を乗り越えてきた森岡氏の歩みを通して、事業への熱意と狙いを探る。(東京報道部・照屋剛志)

 沖縄での新テーマパーク構想が表面化したのは、2014年7月。沖縄タイムスのスクープだった。森岡氏の手腕で業績好調のUSJが、沖縄に第2のテーマパーク建設を検討していると全国でいち早く報じた。

北部テーマパークの名称を「JUNGLIA(ジャングリア)」と発表した刀の森岡毅代表(中央)、ジャパンエンターテイメントの加藤健史代表(右)と森崎菜穂美CMO=11月27日午後2時、東京国際フォーラム

USJ撤退に悔しさにじませ

 ハリーポッターエリアの開業直前で、注目度が急上昇していたUSJの新テーマパーク構想とあって、全国的にも話題となる。離島県で市場規模が小さな沖縄で、どのようなビジネスモデルを描いているのか、森岡氏の戦略にも関心が高まっていった。

 森岡氏は2015年7月、沖縄タイムスの取材に、沖縄は成長著しいアジアからの観光客を取り込めると強調。「テーマパーク事業で十分採算ベースに合う強さを持っている」と答えている。
 ところが、2016年5月、USJは突如、沖縄からの撤退を決める。前年に親会社が買収され、経営陣が入れ替わっており、判断が覆った。

USJが沖縄にテーマパーク建設を検討していることを報じる1面トップ記事(2014年7月5日付の沖縄タイムス)

 森岡氏は共同通信の取材に「収益性は申し分なかった」と悔しさをにじませた。そして、諦めていなかった。
 同年にUSJを退職し、マーケティング会社「刀」(大阪市)を設立。2018年8月には、沖縄を代表するオリオンビール、リウボウ、ゆがふホールディングスの地元3社に加え、近鉄グループホールディングスなどとテーマパークの開発を担うジャパンエンターテイメント社(名護市、加藤健史代表)を立ち上げた。

 その後、建設地を今帰仁村と名護市にまたがるオリオン嵐山ゴルフ場に決定。ジャパンエンターテイメント社は環境影響評価などの手続きを終え、今年2月7日、ついに建設に着工した。
 テーマパークの開発資金は600億~700億円に上るという。

記者団に囲まれる当時のUSJ代表のグレン・ガンペル氏(中央)と執行役員として同行していた森岡毅氏(右後方)=2015年7月、沖縄県庁

ゼロからのスタート

 森岡氏は過去の講演で、資金集めについて「困難を極めると思ったが、やっぱりそうだった」と振り返った。USJの看板がなくなり、ゼロからスタートして、なんとか資金を集めたが、新型コロナの流行で集まっていた投資もほとんどが撤退。コロナによる規制が緩やかになり、展望が見えたことで再び資金が集まり出したが、ウクライナ情勢の悪化でさらに引いていったという。それでも国内企業を中心に巨額の資金集めを成功させた。
 何が、森岡氏をそこまで駆り立てるのか。

 まずは、沖縄のポテンシャルだ。森岡氏は取材や講演会のたびに、亜熱帯特有の豊かな自然のリゾート性と、琉球王朝の影響が残る独自の風習・文化が、年間1千万人もの観光客を引きつけると説いてきた。さらに沖縄から飛行機で4時間圏内にアジア20億人の人口を抱える市場性も指摘。これから世界的に成長する産業は観光業と明言し、観光立県の沖縄こそが世界に誇れるテーマパークを実現できるとしている。

 そして、日本の観光業の魅力の一つはキャラクターコンテンツとも強調してきた。

2023年2月に着工したテーマパークの建設地

 「日本には手塚治虫ら天才たちが作り上げたコンテンツがたくさんある。日本のコンテンツを使ったテーマパークをアジアに展開し、本社のある沖縄や日本にライセンス料が還元される仕組みを作りたい」と力を込める。
 ところが、沖縄のテーマパークでは、日本のコンテンツは使わないという。「まずは、沖縄の森の素晴らしさを生かした設計にしたい」
 実は、本格着工する区域は、ゴルフ場跡地の敷地面積120ヘクタールのうち、60ヘクタールのみ。第1期工事という位置付けだ。

 森岡氏は「ここで成功したら、第2のパークでキャラクターも出していきたい」とし、テーマパークの拡張も視野に入れる。
 第1のテーマパークの建設が進むゴルフ場跡地について「くぼ地になっており、さらに周りを森や山に隔絶されている。空と自分の目の前しか見えないという没入感を演出しやすい奇跡的な場所」と高評価。沖縄の森を存分に楽しめる立地になっているとした。

那覇市内での講演で見せた意欲

 2022年に那覇市内での講演では、こうも語っている。

地元企業代表らとテーマパーク開発を担う新会社設立を公表した森岡毅氏(左端)=2018年7月、沖縄県庁

 沖縄で建設するテーマパークの規模は小さいが、「アジアに10カ所展開すれば、(ディズニーランドを運営する)オリエンタルランドを超えて、アジア最大のテーマパーク運営会社になる」。沖縄でのモデルケースを活用できる場所はアジアに300カ所ほどあるとし、「この中から10件は建てていきたい」と意欲を見せた。

 新テーマパーク構想が明らかになった2014年からの森岡氏の歩みを振り返り、テーマパークにかける熱意と狙いを読み解いた。次回は、27日に東京で開いた記者会見と取材を基に、テーマパークの戦略と市場性、将来性について解説する。28日に配信予定。
 

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