V10化も検討。エントリー申請が拒否されたヴァンウォール、エンジンサプライヤー変更も報われず

 フロイド・ヴァンウォール・レーシング・チームは2024年のWEC世界耐久選手権に向け、グリッケンハウスのサプライヤーだったピポ・モチュール社とエンジン供給の契約を結んだが、そのエントリー申請はシリーズ主催者によって却下された、とチームオーナーのコリン・コレスは語った。

 バイコレスが運営するこのチームは今年、ギブソン・テクノロジー製エンジンを搭載したヴァンウォール・バンダーベル680でWECハイパーカークラスにデビューしたが、トップカテゴリーを戦う他車と比べパワー不足だった車両で困難なキャンペーンに耐えることとなった。

■パワー不足解消のため、一時はV10レイアウトへのアップグレードも検討

 ヴァンウォールのル・マン・ハイパーカー(LMH)規定車両に搭載された4.5リットルV8自然吸気エンジンは、以前バイコレスがLMP1マシンのENSO CLM P1/01に搭載していたギブソン製ユニットを引き継いだものだ。

 ハイパーカークラスにおけるバランス・オブ・パフォーマンス(BoP/性能調整)では、ヴァンウォールの最高出力は開幕戦で511kW(694ps)、ル・マン24時間レースを含む次の3レースで512kW(696ps)とされた。そして最後の3戦は520kW(707ps)となった。

 そうした調整を受けていたものの、ヴァンウォールのマシンはこれらの出力を発揮することができずにおり、そのパワー不足はサーキットの環境や天候によって変動するが、許容された最大値から60kW(81ps)下回ることもあったという。

 V10レイアウトへのアップグレードなど、より大きなパワーを生み出すための改造が検討されたこともあったが、バイコレスは最終的にエンジン・サプライヤーを変更することを決断した。

 同チームは10月末にピポ・モチュール社と合意に達し、2024年シーズンのWECに参戦するためのエントリーリクエストをシリーズに提出したが、ヴァンウォールは11月27日(月)に公開された暫定エントリーリストに並んだ計37台のリストに含まれていなかった。

 しかしコレスは、グリッケンハウス007に搭載されたピポ・モチュール製の3.5リットルV8ツインターボエンジンが、今後数週間で納品される予定であることを確認した。

 彼は『Sportscar365』に対し、このエンジンはエレクトロニクスの点で「少し」仕様が異なるが、主要なアーキテクチャはハイブリッドではないグリッケンハウスと変わらないと述べた。

「(ピポ・エンジンの使用に同意して以来)誰もが昼夜を問わず働いてきた」とコレス。

「我々はエンジンだけでなくそれ以外の面でも(クルマの)改善にあたり、ピポのおかげでその性能について知ることができた」

 エンジン・サプライヤーの変更は、バイコレスがノンハイブリッドLMHプロトタイプの新しいホモロゲーションを追求する決断を下したことにも貢献した。

ピポ・モチュール製エンジンを搭載し、2021年から3シーズンにわたってハイパーカーに参戦したグリッケンハウス007

■エントリー拒否に「言葉を失っている」とコリン・コレス

「モノコックは変わらない」とコレスは確認した。

「冷却系、新エンジンによるパッケージング、サスペンションのアップデート、エアロのアップデートなど、その他の関連事項に関しては、FIA国際自動車連盟と新しいホモロゲーションを取得したほうがいいことが議論された」

 バイコレスが来年に向けてヴァンウォール・バンダーベル680のアップデートに取り組んでいるにもかかわらず、WEC選考委員会にエントリーを却下されたことで将来がどうなるのか、オーストリア籍でドイツを拠点とするチームが2025年に再加盟を試みるのかどうかは不明だ。

 Sportscar365は、ヴァンウォールの2023年シーズンにおける競争力不足が、シリーズからチャンピオンシップに復帰することを拒否された要因だったことを理解している。

 ヴァンウォールはハイパーカー・マニュファクチャラー選手権でランキングで7位(10pt)と最下位に終わり、WECハイパーカー・プログラムに幕を下ろす前に第5戦モンツァ以前の部分的なシーズンを戦ったアメリカのグリッケンハウス(36pt)に及ばなかった。

 バンダーベル680・ギブソンのクラス最高成績は、トム・ディルマン、エステバン・グエリエリ、そして1997年のF1チャンピオン、ジャック・ビルヌーヴがステアリングを握った第1戦セブリング1000マイルでの8位。

 開幕戦を除いてハイパーカーでポイントを獲得したのは終盤2戦の富士、バーレーンのみ。総合最高位は第5戦モンツァ6時間レースの20位だった。

 ヴァンウォールのエントリー拒否に対する反応を尋ねられたコレスは、次のように答えた。

「今のところ、あることについては言葉を失っている以外に何をコメントしていいのかわからない」

「我々は非常に競争力のあるパッケージを持っていただろう」

 コレスは、LMHと同様に1950年代のヴァンウォールF1チームの創設者であるトニー・バンダーベルにちなんで命名された『バンダーベルS』とハイパフォーマンスバージョンである『バンダーベルSプラス』というふたつの電気自動車を開発する計画を進めると付け加えた。

クラス8位となり6ポイントを獲得した開幕戦セブリングでは、元F1チャンピオンのジャック・ビルヌーブも4号車ヴァンウォール・バンダーベル680・ギブソンをドライブした

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