アフリカ、南米で年2万人死亡「吸虫症」新薬研究加速へ 培養の「鍵」抽出に成功 弘前大グループ

 アフリカや南米などで年間数億人が感染し、2万人程度が死亡している吸虫症撲滅に向けた薬の開発に必要な基礎研究として、弘前大学の研究グループが、病気を引き起こす吸虫類の人工培養実験の鍵を握る物質の抽出に成功した。期待通りに効果を発揮すれば、これまでマウスの体内で行ってきた培養を実験用の皿「シャーレ」上でできるようになり、創薬研究が飛躍的に進む。

 成果は10月27日に米国を拠点にした国際科学雑誌「STAR Protocols(スタープロトコルズ)」のオンライン版に掲載された。

 研究に取り組んでいるのは弘大農学生命科学部の小林一也教授(53)と坂元君年准教授(51)を中心としたグループ。現在吸虫症の治療薬とされているのは、体内から吸虫を駆除する「プラジカンテル」と呼ばれる飲み薬が主流だが、この薬が効かない吸虫類も存在する。耐性を持つ吸虫類が現れる可能性もあり、小林教授は「新たな選択肢を提示できれば」と話している。

 吸虫類は哺乳類の体内でのみ有性生殖する。研究グループは吸虫類に近いプラナリアに着目。プラナリアが摂取することで雄と雌に分化し、有性生殖できるようになる因子を吸虫類から取り出すことに成功した。

 この因子は、吸虫類でも性成熟を促進する可能性が高く、マウスの体内ではなくシャーレで培養できれば、吸虫症撲滅に向けた研究を加速できる-と小林教授はみている。

 今後は、抽出した因子をさらに細かく見て、有性化を促す鍵となる最終的な物質を突き止める方針。小林教授は「坂元准教授と12年かけ、兆単位の中から100ほどまで絞り込んだ。もう一踏ん張りして、吸虫症に苦しむ人たちの力になりたい」と話している。

吸虫症 淡水に生息する扁形(へんけい)動物の吸虫類が人や動物の皮膚に入り込むことで発症する病気。肝臓やぼうこう付近で成虫になり、発熱や腹痛、血尿などを引き起こす。

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