【タイ】車載用鉛蓄電池、需要堅調[製造] GSユアサら、タイで増強検討

サイアムジーエスバッテリーがタイで製造している鉛蓄電池(同社提供)

電気自動車(EV)向けの2次電池としてリチウムイオン電池が世界的な脚光を浴びる中、自動車産業が集積するタイでは鉛蓄電池市場も堅調に推移している。今後も、輸出や補修用を中心に安定した需要が期待できることから、GSユアサなど日系メーカーは工場の増強や拡販を視野に入れる。【坂部哲生】

鉛蓄電池は繰り返し充放電ができる2次電池としての機能を備え、エンジンの始動時などに不可欠な部品だ。エンジン始動用の鉛蓄電池の内部では、陽極と陰極、1対の極板が入った部屋である「セル」が6つ直列に接続されている。1セル当たり約2ボルトの電圧を出力するため、鉛蓄電池単体の放電電圧は12ボルトとなる。

2次電池にはニッケル・カドミウム(ニッカド)電池やニッケル水素電池、リチウムイオン電池などもあるが、鉛蓄電池が100年間にわたって利用されているのは、短時間で大電流を放電し、材料である鉛が豊富で安価に確保できる上にリサイクル性に優れ循環型社会の実現に貢献できるといった強みがあるためだ。

タイの車載向け鉛蓄電池市場は、ジーエス・ユアサコーポレーション(京都市、GSユアサ)と古河電池の2強を、エナジーウィズ(東京都千代田区)が追いかけるという構図になっている。パナソニックグループは鉛蓄電池事業をGSユアサに譲渡した後でもタイで事業を継続していたが、今年3月に鉛蓄電池の生産を終了した。

■GSユアサ「2~3割増強」

GSユアサは1969年、日産自動車との合弁事業などを手がけるタイのサイアム・モーターズ・グループと合弁で鉛蓄電池の製造を手がけるサイアムジーエスバッテリーを設立。2013年には出資比率を39%から60%に引き上げた。

サイアムジーエスバッテリーは現在、首都バンコクに隣接するサムットプラカン県にある同社工場で、◇トラックやタクシー向けのコンベンショナル(従来型)◇乗用車向けで補水が不要なメンテナンスフリー◇ピックアップトラック向けで耐久性が高く、コンベンショナルとメンテナンスフリーの中間に位置するハイブリッド——の3種のバッテリーを製造している。タイには、別会社として設立したGSユアサアジアテクニカルセンターが研究開発(R&D)を担当しており、完成車メーカーからの要望に細かく対応している。

サイアムジーエスバッテリーは鉛蓄電池事業で、現行比2~3割の増強を検討している。中央は同社の湯淺社長=10月31日、タイ・サムットプラカン(NNA撮影)

納品先の内訳は、タイ国内の新車向け、補修向け、輸出向けとなっている。タイの車載向け鉛蓄電池の新車向け市場規模は、タイでの自動車の生産台数に等しい。タイ工業連盟(FTI)によると、2020年は半導体不足の影響などで前年比約3割減の142万6,970台と不振だったが、21年は18%増の168万5,705台に回復。21年は12%増の188万3,515台まで回復した。鉛蓄電池は車の使い方にもよるが、通常2年ごとに交換されるという。補修用は今後とも需要が堅調に推移するものとみられる。

輸出向けについては、ミャンマーやラオス、カンボジアなどの周辺国では今後自動車のさらなる普及に伴い同国の車用鉛蓄電池市場は拡大する見通しだ。ミャンマーでは、サイアムジーエスバッテリーの100%子会社が販売を担っている。ラオスとカンボジアは代理店経由だ。

サイアムジーエスバッテリーの湯淺栄人社長は今後の事業計画について「すでに一部増強を始めている。向こう数年以内には生産能力を現行の2~3割引き上げたい」と話す。具体的な時期などは、タイと周辺国の市況を見て判断していく考えだ。

鉛蓄電池の需要に大きな影響を与えるとみられる電気自動車(EV)についても「エンジンの始動用ではないが、現時点では補機用として鉛蓄電池が使用されている」(湯浅社長)という。

一方、米中対立などの地政学リスクが高まる中、日系企業の間ではリスク分散の観点から中国での生産をタイにシフトする動きが強まっているが、湯淺社長はGSユアサが中国からタイに生産の一部を移管する可能性を否定した。GSユアサは7月、中国にある製造拠点を中国企業との合弁経営に切り替えると発表した。今後も拠点ごとで「地産地消の原則」を貫いていく考えのようだ。

■古河電池は建屋増築

古河電池は、92年に素材最大手サイアム・セメント(SCG)と合弁で設立したサイアム・フルカワが25年までをめどに、中部サラブリ県にある工場に建屋を増築する計画だ。市場動向を見極め、増やしたスペースを活用しながら段階的に製造設備を拡充していく。

古河電池の広報担当者は今後のタイの鉛蓄電池市場の見通しについて「中期的には、経済成長の鈍化傾向および政治的な不安といった懸念要因があるものの、自動車向けの需要は堅調に推移していくと見込んでいる」と話した。

■拡販に強い意欲

エナジーウィズは、昭和電工マテリアルズ(現レゾナック)から分割した蓄電デバイス関連事業を継承。タイでは現地法人、タイ・エナジー・ストレージ・テクノロジーが、「3K」ブランドでバンコク東郊のサムットプラカンのバンプー工業団地内の工場と東部チャチェンサオ県ゲートウェイシティー工業団地の工場で鉛蓄電池を製造し販売している。ゲートウェイシティー工業団地には、グループ会社が保有する鉛再生事業を行う工場もある。同工場は、タイ国内の鉛再生工場では初めて環境健康影響評価(EHIA)の認証を取得。鉛蓄電池のリサイクルや鉛蓄電池生産における二酸化炭素(CO2)排出量の大幅な削減に貢献している。

同社の広報担当者は「タイ国内の補修市場では、鉛蓄電池の需要は今後も堅調に推移する」とし、「液補充タイプからメンテナンスフリーへ鉛蓄電池の高性能化が加速するだろう」とし、拡販への強い意欲を見せた。

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