[社説]無電柱化 県全域で進めるべきだ

 電線を地下に埋め込むなどして道路から電柱をなくす「無電柱化」が再び注目されている。

 県内で約21万5800戸が停電した今年7~8月の台風6号を受けて、岸田文雄首相は沖縄の離島を含む地域を優先に無電柱化を進めることを表明。電力や通信の事業者向けに、2023年度の補正予算で約1億円を計上した。

 県や市町村には国の補助制度がある一方で、作業の一部を担う事業者側は全額負担になっているといい、負担軽減で離島の無電柱化を加速させる狙いがあるという。

 ただ、台風時に停電のリスクがあるのは離島だけではない。優先順位をつけ、県全域で着実に進めるべきである。

 無電柱化は停電対策にとどまらず防災性も高める。台風や地震、津波などで倒れた電柱が道路をふさげば、生活物資の輸送や消防・救急活動を妨げる。宮古島では03年、台風14号で電柱800本が倒壊。電力や通信だけでなく、生活物資の輸送や緊急車両の通行に影響を及ぼした。

 日常生活においても、狭い歩道に電柱が無秩序に立ち並んでいれば、児童・生徒や高齢者、車いすが安全に通行できない。とりわけ観光地では景観を損ねる。

 国土交通省によると、都道府県別の無電柱化率で沖縄は全国8位だが、率は2%に満たず、1位の東京でも5%台にとどまる。ロンドンやパリ、香港、シンガポールは100%だ。国内外から観光客を迎える上でも台風に備える上でも、無電柱化は大きな役割を果たす。

■    ■

 無電柱化へのハードルの一つは高額な費用だ。以前は電線をコンクリートの大型ボックスに入れて埋設するのが主流で、1キロメートル当たり約20億円を要したという。近年は、電線を通すパイプだけを地中に埋め込んだり、ボックスを小型化したりして事業費を抑えているが、それでも1キロメートル約3億~5億円かかる。

 沖縄には独自の優遇措置があり、国が県や市町村に8~9割を補助している。制度を利用しない手はないが、各自治体が「無電柱化推進計画」を策定していることが条件となる。

 23年4月時点で、計画を策定しているのは県と10市町村のみで、策定予定は5市町村にとどまる。今月に開かれた無電柱化に関する自治体や事業者の協議会には初めて県内全41市町村がそろい、全自治体で計画の策定を目指すことを確認した。認識を新たに進めてもらいたい。

■    ■

 無電柱化は県や市町村だけでなく、電力会社や通信事業者、地域住民との調整や合意形成が不可欠となる。400メートルを整備するのに約7年かかるともいわれ、道幅の狭い道路ではさらに長くなる可能性もある。

 無電柱化を進めるための法律は「地域住民の意向を踏まえつつ、地域住民が誇りと愛着を持つことのできる地域社会の形成に資する」ことを理念にうたう。

 各自治体は無電柱化の意義を丁寧に説明しながら、安全で快適な街づくりへ官民の機運を高めていくべきである。

© 株式会社沖縄タイムス社