長崎新聞文化章

 障害者協会の青年部の打ち合わせで入った喫茶店、仲間のカヨちゃんが妙にキョロキョロしている。初めて喫茶店に入ったの…そう聞かされた日の衝撃が土岐達志さんの原点だ。「よし、障害者が隔絶されない社会を」-その思いに突き動かされてきた▲ビワ、ツバキ、お茶にミカンにユウコウ。県産の農産物が持つ健康への効能を次々に突き止めた論文は「しかし、なかなか注目されませんでした」。それでも歩みを止めなかった田中一成さんの研究に地方創生の風が吹いた▲「国境の島・壱岐は交通の要衝であると同時に、融和と衝突が繰り返された地です。たくさんの貴重な遺産が埋もれています」-島の学術的価値を説く山内正志さんの言葉が熱い。生まれ育った島への誇りと愛情がにじむ▲初心を忘れることなく、若き日の誓いや情熱をそのままに-と短い言葉で要約することに強い抵抗を感じる。今年の長崎新聞文化章を受章いただいた3氏。昨日の贈呈式で晴れやかに喜びを語ってくださった▲「まだ気力も活力もある」「体の続く限りは」「これからも」と、3氏はまるで競争のように新たな決意を語った。どこまで行っても道はまだ半ば-と▲はるか彼方(かなた)のゴールを目指して進み続ける姿がひたすらまぶしい。僭越(せんえつ)ながら本欄からも大きな拍手を。(智)

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