悪質ホストクラブ問題は「情弱ビジネス」の一部!? 法律家が指摘する“ツケ呑み”商売の本質的な問題点

女性客への多額のつけで風俗勤務を教唆するなど、悪質ホストは社会問題化(foly / PIXTA)

悪質ホストによる、顧客への多額の売り掛けが問題になっている。支払い能力を超えたサービスを受けさせ、いわゆるツケによる後払いを事実上強制。女性客はその高額な支払いのため、単価の高い風俗業などへ流れざるを得ない悪のスパイラルが蔓延している。

国会では、塩村あやか議員が、数百万円から数千万円の売り掛けを背負わされ、売春や風俗勤務を教唆された被害女性の実状とともにこの問題を取り上げ、消費者庁から「売り掛けは取り消しうる」、国家公安委員長からは「常識的に考えて問題」という答弁を引き出している。

新宿区も対応策を打ち出している(出典:新宿区 https://www.city.shinjuku.lg.jp/whatsnew/pub/2023/1117-01.html)

ホストが軒を連ねる歌舞伎町界隈を管轄する新宿区の吉住健一区長も、事態を深刻に受け止め、会見で対策を打ち出すとともに、売掛金に限度額を設けるなどの自主規制ルールの作成をホスト店側に求めた。

27日には、警察庁の露木康浩長官が歌舞伎町を視察。「卑劣な営業手法に対しては、あらゆる法令を駆使して徹底的に取り締まる」と悪質ホストの一掃に手を緩めないことを誓った。

売りかけはどこまで許されるのか…弁護士に聞いた

そもそも、問題の元凶となっている、客に対する売り掛け(ツケ)は、どこまで許され、どれだけの返済義務があるのか。どんな場合なら、返済を免除してもらえるのか。また、男性の飲食店等でのツケも、どれくらいが許容範囲なのか。生活トラブルに詳しい杉山大介弁護士に聞いた。

──問題になっているホストの売り掛けは明らかに女性客の支払い能力を超えています。こうした場合、法的に支払いを拒絶することは可能なのでしょうか。

杉山弁護士:可能です。例えば消費者契約法に関していえば消費者契約法4条3項6号が一番使いやすいです。

“六 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること”

ただ、これは平成30年の改正で入ったもの(令和元年6月15日施行)なので、まだちゃんとした裁判例は確立していません。活用する方法も十分に周知されていない感があります。

補足すると、消費者契約法を適用するには 「事業者と消費者の間の契約」である必要があります。店との契約だと対法人なので、当然事業者との契約になります。しかし、ホスト個人や歌舞伎町あたりでホストクラブや風俗店とをつなぐ役割をしているスカウトと売掛契約をしていると評価する場合、それが事業者との契約といえるのかが論点になってくると思います。 個人的には事業者性は肯定されると思いますが、そういう反論はされそうですね。

“第二条 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。2 この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。3 この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。“

──客側も泣き寝入りすることはなく、法的に対抗できそうです。

杉山弁護士:結論としては消費者契約法自体は使えると考えます。ただ、そうした法律の土俵にのせたまともな議論がされる状態まで行く以前に、客側が上手にホストに囲い込まれてしまっているのが実状。それが、このホスト問題の本質ということです。

別のアプローチとしては、公序良俗違反での主張も検討されるかもしれません。しかし、その場合は、「暴利行為」とまで評価される必要があるため、ハードルは高めです。戦うなら主張はするけど、いけるといえる感触ではないですね。過去の裁判例でも客側が負けています。

──ツケでいうと、男性では夜の街でツケ飲みする人も一定数います。なかにはトラブルに発展するケースもあるようですが、この場合、客が店側と健全な関係を続けていくためにどんなことを心がけておけばいいでしょうか。

杉山弁護士:これについてはひと言。「ツケで飲むな」としか私は思いません。払えるお金をその場で払うのが真っ当な取引でしょう。その取引から利益が新たに生まれるわけもなく、その場で消費して終わる取引なんですから。商売における売り掛けと同じ次元で考えるのはあまりにナンセンスです。

──”ツケ飲み”は全くもってイケていない飲み方ということですね。そう考えると、ホスト問題におけるツケは、店側が実質的に売り掛けを強要しているようでもあり、逆の観点で、「ヤバイ」ですよね。

杉山弁護士:「強要」という言葉には疑問がありますが、第一に店に通う側が経済的に極めてダラしないことは確かです。しかし、そういうダラしなさにサービス提供側が乗じ、生活まで破綻させるのを公益を担う側が許容すべきでもない。繰り返しになりますが、それがこのホスト問題の本質だと私は思っています。

──――確かに単純に善悪を10か0かで論じる次元の問題ではないですね。

杉山弁護士:それよりも、あえて私見を述べさせてもらえば、ホストというのは、多くの一般人から「ヤバイ」世界だと一応、認識されています。そのことで、少しは通うことを躊躇させる側面があるということです。 一方で、もっとカジュアルな”後払い”である「リボ払い」がかなり浸透してます。手軽さに問題が覆い隠されていますが、私はこちらの方が、社会においてはよほど多くの人々の生活に影響を与えており、問題視すべきじゃないかと思っています。高利の借金だという意識がなく借金をしている人たちが生まれているわけですから。

“情弱ビジネス”ってなにもホストだけじゃない、ということです。

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