滋賀県の観光、将来像どう描く? びわこビジターズビューロー川戸良幸会長に聞く

インタビューに答えるびわこビジターズビューローの川戸会長(大津市・コラボしが)

 観光産業に打撃を与えた新型コロナウイルス感染症の法的位置づけが「5類」に移行し、約半年が経過した。観光需要はコロナ禍前の勢いを取り戻しつつある一方、物価高や人手不足がのしかかり、関連事業者にとって「順風」と言いがたい状況が続く。びわこビジターズビューロー(大津市)の川戸良幸会長に、湖国観光の現在地と目指す将来像を尋ねた。

 -滋賀県内のコロナ禍からの回復状況は。

 「観光庁の宿泊旅行統計調査によると、7月の滋賀県内観光入込客数はコロナ禍前の約9割まで回復した。ゴールデンウイークやお盆はコロナ禍前を上回る人出の場所もあり、肌感覚では『コロナ越え』に入っているとの印象だ。グランピングやオートキャンプも地道に成長している」

 「ただ、事業者ごとにみると回復はまだら模様だ。コロナ期間中に客単価を上げるためのサービスの向上や、おもてなしの工夫を積み重ねてきたところは持ち直しが早い。逆にまだ回復していない事業者は、このまま取り残されるのではないかと危(き)惧(ぐ)している」

 -昨年度から「シガリズム」と銘打ち、体験・滞在型の観光に注力している。

 「自然や歴史、文化といった無形のものを楽しんでもらう『コト消費』を重視し、昨年度だけで67のコンテンツを開発した。今年スタートした刀鍛冶体験は参加費が55万円と高額だが、人気を集めている。知る人ぞ知る存在を価値の分かる人に発信するやり方として、シガリズムは非常に効果的だ」

 -物価高や人手不足の状況はどうか。

 「物価や人件費の上昇による影響は無視できず、人手不足も深刻な状況だ。状況をきめ細かく把握し、行政の支援策にうまく橋渡しできるようにしたい」

 「物価高対策で考えたいのが、富裕層向けの高価格帯コンテンツ開発だ。サービスなどの付加価値でクオリティーを高められれば、コストの上昇分を吸収できる。域内消費の促進も流通費の抑制につながる。行政には地域資源の活用や地元雇用に対し、補助するような仕組みを求めたい」

 -2024年放送のNHK大河ドラマ「光る君へ」は、滋賀ゆかりの紫式部が主人公。観光分野への期待は。

 「露出が増えることは、県内誘客への大きなチャンス。石山寺はもちろん歌碑など他のゆかりの地を含めたPRや、平安女性文学に切り口を広げるなど工夫を凝らして波及効果を狙いたい。来年以降、北陸新幹線敦賀延伸や国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会、大阪・関西万博などビッグチャンスが続く。第一歩が大河ドラマで、好機を生かして滋賀が『光』を放てるよう取り組みたい」

 -人口減少が続く中、地方での観光の将来をどう考える。

 「今後、人材も減るが消費も減る。そのひずみを受けるのは地方で、費用は上がるが売上が下がるというスパイラルが起こるだろう。景気のいい時と同じやり方では、滋賀は負け組の一員にとどまってしまう。地域で雇用を確保し、資源の消費と生産の循環を生み出せるのが観光産業の強み。住民と協力してまちを持続可能にしていくためのエンジン役を担っていけるような将来像を目指したい」

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 かわと・よしゆき 膳所高校卒。1975年に琵琶湖汽船に入社し、2004年に取締役、14~20年に社長。びわこビジターズビューローでは、14年に副会長、21年から会長。大津市出身。

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