<現地取材>ヴィアティン三重が持つ「JFL最高のポテンシャル」 樋口靖洋監督が感じた「結果とスタイル」の葛藤

11月26日に行われたJFL最終節。2位のレイラック滋賀FCはこの時点でJ3ライセンスが取得できていなかったが、継続審議中であったためまだ入れ替え戦出場の可能性があった。2位以内でシーズンを終えることがその最低条件だった。

そのレイラック滋賀FCを迎え撃ったのが、ホームのLA・PITA東員スタジアムで戦うヴィアティン三重。

関係者の多くも「Jリーグに最も近いクラブ」と認める組織とファンベースを持ち、スタジアムも照明要件をクリアしている状況ながらも、サッカーの結果によって昇格することができていない。

そして今季も最終節を前にして9位に沈み、すでにJリーグ参入の可能性を失った状態でクライマックスを迎えていた。

目標を喪失した三重の「意地」

昇格も降格もないというモチベーションが難しい状況で迎えたこの試合、ヴィアティン三重は序盤から失点を重ねるスタートに。

前半5分にレイラック滋賀FCは平尾壮のコーナーキックから平井駿助がヘディングを叩き込み、先制点を奪取。得意のセットプレーからゴールが生まれた。

さらにその10分後にはレイラック滋賀FCが追加点。海口彦太のシュートをGK森健太が弾いたところを、角田駿が角度のないところから押し込む。これがネットを揺らし、さらに差が広がった。

ただ、29分にヴィアティン三重は少ないチャンスを生かして追いつくことに成功する。裏に抜け出した田村翔太がシュートを決め、前半のうちに1-2と詰め寄った。

そして後半、意地を見せたいヴィアティン三重は、勝利が義務付けられたレイラック滋賀FCと互角の戦いに持ち込み、85分にPKを獲得。これを大竹将吾が決め、終盤に入ったところで2-2と同点に追いつくことに成功した。

この後はレイラック滋賀FCが怒涛の勢いで攻め込むも、ヴィアティン三重が体を張ったディフェンスでそれを阻止。アディショナルタイム5分が経過したところで長い笛が鳴り、2-2の引き分けで試合は終了した。

「我々のスタイルで戦い、結果を残す」

最後に意地を見せたヴィアティン三重。今シーズン限りで退任が決定している樋口靖洋監督は、試合終了後の会見で以下のように話した。

――試合の統括は

今日の試合はホーム最終戦。残念ながら我々が昇格のようなものがかかった試合ではなかったのですが、2000人を超えるサポーターの皆さんに来ていただきました。

今季最後の試合を一緒に戦っていただけたことは本当に嬉しい思いですし、JFLでナンバーワンのファン・サポーターであるということを再認識しました。

試合は最初の15分、相手のアグレッシブにボールを前に入れてセットプレーを取ってくる戦い方に対して、残念ながら受けに回ってしまった。

ただ2失点した後は上手く耐えながら盛り返しました。前半は風下でもあったので、若干押されるのは覚悟の上でしたが、非常にきれいな形で1点を返せました。そしてチーム全体が『まだまだ下を向かずに行くぞ』という空気を作ってくれました。

後半は我々が風上になって、しっかりボールを動かすことができるようになり、相手の圧力を上手く分散させながらサッカーができたと思います。ゴールはPKでしたが、しっかりと決めて追いつけました。

交代選手は勝ち切る為に送り出しました。最後の試合はやっぱり勝とうという意識がありました。結果として3点目は取れませんでしたが、積み上げてきたものを選手が表現して諦めずに戦えたと思います。今日多くの皆さんの声援があって、それに背中を押されたことが大きかった。

相手のスタイルは関係ない。我々は我々のスタイルで戦い、そこで結果を残す。今日もそうして試合に臨みました。勝てはしませんでしたが、選手は最後までよくこだわってやってくれたと思います。

――指揮した2年間を統括すると

42年ぶりに故郷の三重に返ってきて、地元のクラブに関わることができた。この2年間は本当に充実していました。

なぜかといえば、選手たちが本当にサッカーと真摯に向き合ってくれているからです。

彼らは午前中にしっかり練習して、午後は仕事をに行く。夜まで働いていても、トレーニングに来る時には準備をしてきてくれる。

厳しかったかもしれませんが、僕が選手に求めたのは4つ。良いコンディション、高いモチベーション、高い集中力、そしてそれを維持すること。

これが揃っていれば、必ずいいトレーニングができる。

体が辛かろうが、職場でなにか嫌なことがあっても、彼女と喧嘩しても…いろんなことがあるかもしれないけど、ピッチに立ったらその4つの要素を持って欲しいと。

それを選手たちはやり切ってくれた。だから充実していた。本当に練習が楽しかったんですよ。「こんな反応をするんだ」「こんな手応えを感じさせてくれるんだ」と。

それを結果に結び付けることが僕の仕事だったんですが、できなかった。それは選手に申し訳ないし、サポーターにも申し訳ない。

ただ、本当に充実した2年間を過ごさせていただいたと思っています。感謝しています。

「自分のワガママな哲学が、甘さなのかもしれない」

――昨年は奈良クラブの昇格を目の当たりにしました。あの記憶があったからこその、今日の後半のプレーだったのかなと感じましたが…

それは確認はしていませんが(笑)去年奈良クラブとの試合が終わった時、みんな塞ぎ込んでいましたが、『奈良クラブの昇格セレモニーを見ておこう』と言いました。

みんなでその悔しさを感じることが、絶対に次へのバネになる。だからその光景を目に焼き付けて来季を戦おうと。そう話しました。

それが選手にどれだけ響いているのかは分からないですが、今日もシチュエーションとしては同じでしたね。こちらが負ければ、相手は上に行く可能性が生まれる。

去年からここにいる選手たちにはそのようなものがあったのかなと。そして意地を張ってくれた。それは本当に嬉しいですね。だからこそ、勝ちたかったですけども。

――Jリーグに近いクラブと言われながら上がれない年が続きます。プラスすべきものとは…

それが分かっていれば、今年昇格していたと思います(笑)。ただこのクラブが持っているポテンシャルは、JFLで一番だと思います。組織的なところ、そしてファン・サポーターの多さ、地域との一体感。間違いなくJ3のクラブよりも上回るところがあります。

ただ、それでなぜ結果が出ないのか。この2年間で感じたのは、僕がもうちょっと勝負にこだわらなければならないのかな…という部分です。

僕はスタイルを崩したくないんです。勝つために守備的にしたり、カウンターだけを狙ったりすることは。

そのほうが勝点は取れると思います。ブリオベッカ浦安さんが負けなくなったのはその部分ですし、レイラック滋賀さんも守ってファウルを取ってセットプレーが強みです。滋賀さんは総得点の半分以上がセットプレー。それは驚異的な数字なんです。

ただ、僕はそれはやりたくないんです。サッカーの醍醐味や面白さ、それを選手が感じなければいけない。プレーを楽しんで、見ている人が面白いと思ってもらいたい。

それを崩してまでサッカーはやりたくない…というのが僕の信念です。ただ、それがある意味甘さなのかもしれませんね。

昇格に届かなかった、勝ちきれない試合が多かった。すみません。僕のワガママな哲学、ワガママなフィロソフィーが、昇格できなかった要因の一つかもしれません。

ただ、これはチームに残したものとして、ぜひ財産にしていってほしいなと思います。

「三重の象徴となるためのスタイルを」

――レイラック滋賀FCの菊池利三監督が、S級ライセンスの講習で樋口靖洋監督の研修を受けたと仰っていました。覚えていますか?

菊池くんもそうですし、小倉(小倉隆史)や一三(中田一三)もそうですね。多分S級かな。僕の練習の研修で。覚えていますよ。あのへんの連中は(笑)。

――実際に対戦してみてどうでしたか?

夏にコーチから監督に変わってチームをまとめ上げるというのは、すごくよくやったなと思います。しかも滋賀は40人以上選手がいるんでしょう?本当に大変だと思うんですよ。

それを一つのチームとして、そして昇格までギリギリのところまで持ってきたというのは、まさに彼の手腕かなと思います。

――来季のヴィアティン三重にエールを送るとしたら

このクラブが抱える理念、それは本当に素晴らしいものです。自分もそれに共感して就任したわけですから。

その理念をより高めて行って欲しいし、実践していくためには…それは僕の勝手な考えではありますが、見ている人たち、プレーする選手、子どもたち、指導者たち、その象徴になるためにスタイルという部分をしっかり築いてほしい。

それが僕の一番の願いです。その上で昇格を勝ち取るということを願っていますし、その姿を来年以降見せて欲しいですね。

僕はこの2年間、本当に何も残すことはできなかったかもしれないけれども…足跡として引き継いでもらえたら嬉しいと思っています。

本当に、このクラブの発展とJリーグ昇格を願っています。すみません、だらだらと長くなって、勝手な思いだけ喋って(笑)」

JFLで2017年から7シーズンを戦ってきたヴィアティン三重。しかし成績は最高6位で、Jリーグ昇格までは手が届かない状況が続いている。

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樋口靖洋監督が残したサッカーのスタイルは、これからヴィアティン三重をどのように変えていくのか。来季新指揮官を迎えて戦うクラブにはさらなる注目が集まることになるだろう。

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