記憶喪失、派遣切り 「100人いれば100通りの人生」救護施設での日々が書籍に

出版記念イベントでひのたに園について語る御代田さん(東京都内)

 滋賀県日野町の救護施設「ひのたに園」での日々をつづった「よるべない100人のそばに居る。」を、元職員の御代田太一さん(28)=東京都=が出版した。記憶喪失の人に、自殺未遂を経た夫婦、派遣切りに遭った外国人…。“最後のセーフティーネット”とも呼ばれる施設にたどり着いた8組の多様な生きざまを描く。

 御代田さんは東京大在学中に障害当事者や支援者と交流する授業で生きづらさを抱えた人々から生の声を聞き、福祉の仕事に興味を持った。卒業後、全国の福祉関係者が湖国に集う催しをきっかけに県内の社会福祉法人に就職。そこで初めて知ったのが救護施設だった。

 同園には老若男女100人が暮らす。1年間で約60人が入退所するといい、突然失踪するケースも。御代田さんは「18歳以上であれば誰でも受け入れ、いろんな人がごちゃ混ぜで生活している」と語り、インクルーシブな環境に面白さを感じたと振り返る。

 著書では、新米の生活支援員として働き始めた2018年春からの3年間で出会った8組の利用者を中心に紹介。6年間ホームレスだった人、コロナ禍のパチンコ店休業で収入を絶たれたパチプロ、同園で半世紀以上過ごしてきた人と事情はさまざまだ。

 「100人いれば100通りの底知れない人生がある」。利用者と向き合うことで立ち上ってきたのは、一人一人の営みの物語だ。利用者像や役割自体が外部から見えづらいとの指摘もある救護施設だが、御代田さんは「顔の見えない人にも顔がある」と話す。

 現場で感じた経営や人材の課題解決に生かそうと今夏退職し、コンサルタント会社に転じた。「福祉以外の広い世界を見て、同世代がケアの現場に興味を持って飛び込めるようにしたい」と展望する。河出書房新社、1782円。

≪救護施設≫
 
 活保護法に基づき、主に身体や精神の障害で日常生活を送るのが困難な人々の支援を目的としている。地域での自立に向けた個別の支援にも取り組んでいる。県内では、ひのたに園のほか大津市や高島市に計4カ所ある。

「よるべない100人のそばに居る。」

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