社説:トリガー条項 許されぬ政局の道具化

 政治の利害で税制を駆け引きの道具とすることは許されない。

 ガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」の凍結解除を巡り、岸田文雄首相が検討を進める考えを示した。

 凍結解除を強く求める国民民主党に首相が呼応した形で、与党と国民の3党で協議する。首相は「結論を尊重し、私自身が判断する」と前向きな構えをみせる。

 協議と引き換えに、国民は2023年度補正予算案に賛成した。政務三役の相次ぐ不祥事や唐突な減税表明などで支持率が落ち込む中、野党を分断して政局を有利に運びたいとの思惑が透ける。

 同様の3党協議は昨春もあり、国民が予算案に賛成したが、最終的に解除は見送られた。焼き直しのような枠組みを作っただけで、再び巨大与党にすり寄る国民の姿勢も理解し難い。

 トリガー条項は10年、旧民主党時代に設けられた。レギュラーガソリンの全国平均価格が1リットル当たり160円を3カ月連続で超えた場合、ガソリン税のうち、約半分にあたる上乗せ分25.1円を減税する。11年の東日本大震災後、復興財源確保のため凍結され、一度も発動されたことはない。

 ウクライナ危機などで高騰するガソリン価格に対し、政府は時限措置として補助金で抑制を図っているが、価格は落ちつかず6度も延長している。次の期限は来年の4月末である。

 そこをにらみ、与党はトリガー条項の凍結解除に結論を出すという。だが、政府・与党内にも慎重な声が少なくない。

 ガソリン税は地方税を含むため、自治体財政にも直結する。鈴木俊一財務相は国と地方合わせ「1.5兆円もの巨額の財源が必要になる」と難色を示す。

 そもそも補助金も凍結解除も富裕層を含めた一律支援に変わりなく、財政難を顧みない「ばらまき」といえる。ガソリン使用を抑える脱炭素の流れにも逆行しよう。さらにいえば、補助金で含まれていた重油や灯油は、トリガー条項では対象外となる。

 物価高対策ならば、低所得者層への支援に絞るべきだ。

 ガソリン税はもとは特定財源として、道路整備のために暫定的に税率が上げられた。一般財源化された後も、上乗せ分として残り続けてきた経緯がある。

 ガソリン税をどうするかは、国と地方の税制全体の中で丁寧に議論すべきテーマだ。場当たり的な対応は慎んでもらいたい。

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