社説:救済法案の審議 教団財産の散逸を防がねば

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者救済を巡り、解散命令を請求された宗教法人の財産を散逸させないための法案が、国会で審議されている。

 請求から司法の判断まで時間がかかるため、自民、公明、国民民主の3党と立憲民主、日本維新の会の2党が、それぞれ提出した。

 二つの法案は、解散命令前の財産保全に対する考え方で大きな違いがある。

 自公国案は、憲法に定める信教の自由の観点から保全措置はとらず、財産の監視を強化するとした。財務書類を3カ月ごとに所轄庁に提出させるよう回数を増やし、不動産の処分前には通知を義務付ける内容だ。

 これでは財産の処分そのものは止められない。高額献金や霊感商法に苦しんだ被害者の立場に立ち、実効性のある救済につなげるには不十分ではないか。

 案では、監視状況に基づいて被害者による民事保全などを行う訴訟費用の援助も盛り込んだが、実態とずれがある。

 教団の被害者を支援してきた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、被害者が訴訟に踏み切るには精神的にもハードルが高く、事例も少ないとしている。個別に差し押さえを求める負担も大きいという。

 立維の案は、海外への送金など財産の隠匿・散逸の恐れがあれば、所轄庁の申し立てで裁判所が保全命令を出せるとした。解散の確定時、救済に必要となる原資の確保につながる。

 国会では与党側が信教の自由の侵害への懸念を指摘し、内閣法制局長官も「慎重な検討が必要」と答弁した。

 一方、財産保全の必要性を主張してきた全国弁連の弁護士は「信教の自由を強く制約することにならない」とし、「日常的な行事の資金を含めないなど柔軟に対応を」と述べている。憲法学者からも「宗教活動そのものを規制するわけではなく、違憲にはならないだろう」との声が上がる。

 解散命令を請求するのは、「公共の福祉を害する行為」をとった疑いが強い宗教法人が対象となる。

 そうした法人に対して、裁判所の判断で、税制の優遇もあって築いた財産を保全することが、具体的にどう信教の自由を侵害するのか。抽象的に、法人が活動しにくくなるというだけでは十分な説明とはいえず、被害者の理解も得られまい。財産保全措置は不要とする教団側の主張に沿う形にもなる。

 昨年の臨時国会で不当寄付勧誘防止法を制定した際は、岸田文雄首相も積極的な姿勢をみせ、与野党が折り合って成立させた。

 今回、二つの法案の考え方には隔たりがあるが、被害者は確かな救済を願っている。不安を解消するためにも各党が歩み寄り、法整備へ一歩を踏み出すべきだ。

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