常に動いてないとダメだし、一つのところに留まりたくない
──11月1日の『SOME FLOWERS』の先行リリースのワンマン、良かったです! 私が初めてNICKEYさんにインタビューしたのが『ONE FROM THE HEART』(2019年)リリースのときだったせいか(当時のインタビュー記事はこちら)、タイトル曲「ONE FROM THE HEART」は印象に残ってる曲なんですよ。
NICKEY:「ONE EROM THE HEART」はプロデューサーのHIKAGEさんが、「凄くいい曲なんだから、ライブでは『BORN TO RIDE』と2曲続けてラストにやらないとダメだよ」とかいろいろ言ってました(笑)。あの曲、好きな人多いんですよ。
──初期の痛快パンクナンバー「BORN TO RIDE」と続けてやらないとダメって言うのは、「ONE FROM THE HEART」への最高な賛辞ですね。「ONE FROM THE HWART」はポップでメロディアスで、それだけじゃなくワンマンではライブのハイライトになるような曲になってたもんね。ライブで育ってきたんだなぁって思いましたよ。
NICKEY:うん。ライブでも定着したかなって思ってます。あたし自身も思い入れがあるし、凄い気に入ってるし。大事にしていきたい曲です。
──ワンマンでは昔の曲もアップデートされてると感じました。
NICKEY:ホントですか? 嬉しい。ワンマンだし二部構成にして、ちょっと曲順や選曲も変えたんです。いつもは中盤から後半にやる「TOKYO DOLLS」や「CANCEL EVERYTHING」を敢えて頭のほうに持ってきて、二部の頭に新曲を続けてやって。
──「ONE FROM THE HEART」は一部の最後だったよね。
NICKEY:そう。一部の最後。
──今のメンバーの音って感じなんでしょうね。
NICKEY:そうですね。今のメンバー、バランスが凄くいいんですよ。
──インタビューで「ONE FROM THE HEART」は応援歌って言ってましたよね。
NICKEY:そうそう。初めて応援歌を作りました(笑)。
──当時はコロナが始まって辛い時期になっていったけど、あの曲で元気をもらいましたよ。で、バンドもライブハウスもしんどい時期に活発にリリースを続けていた。どんな心境だったのかを改めて教えて。
NICKEY:ホント四苦八苦して。ライブが急にできなくなったりとかいろいろあって。大口君(The STRUMMERS、HOT AND COOL)が加入したばかりで。2021年1月の新宿LOFTでの無観客配信ライブが今のメンバーになって初めてのライブなんですよ。
──そっか。新メンバーが入って、さぁ行こう! ってときにコロナが…。
NICKEY:そうなんですよ。大口君との初ライブをやって、その後もライブやツアーが急遽中止になったり。そんな中、2020年にソロのシングル『LOVE×HURTS』とミニアルバム『太陽はひとりぼっち』を作って、森重樹一(ZIGGY)さんとデュエットして。そのリリース記念ライブも決まってたんだけどできなくなって。そんな状況でした。
──それでもリリースを続けて。
NICKEY:結成35周年だからHIKAGEさんにプロデュースを頼もうって作ったのが『ONE FROM THE HEART』なんです。HIKAGEさんには昔からお世話になってるけどプロデュースしていただくのは初めてで。そこから毎年リリースしていこうって決めてたんで。そしたらコロナが始まってしまい。「こんな状況だからこそ、やらなきゃ!」って気持ちもあったんだと思うんです。こんな時期だからじっくり充電って人もいると思うけど、あたしはダメ。常に動いてないとダメなんです。基本、前向きなんで(笑)。
──いや~、凄いよ。リリースは続けてたし、その作品も変化し続けてるんだから。『ONE FROM THE HEART』はポップだったけど、ソロを挟んで次の『TOKYO DOLLS』(2021年)は艶やかなロックンロール。
NICKEY:作品ごとに違うでしょ~(笑)。
──『COLD METAL GUN』(CD+DVD / 2023年)も違うし、今年春の極東ファロスキッカーとの2マンライブの会場限定リリースの宙也さんとのデュエット「COSMIC LOVE」も違う。そして今作『SOME FLOWES』もまた違う。挑戦し続けてる。
NICKEY:CROSS(THE LEATHERS)の曲が増えたっていうのもあると思う。CROSSは前からちょこちょこと曲を作ってくれてたんだけど、『ONE FROM THE HEART』から大半を作るようになって。CROSSはギタリストだけど自分のバンドではボーカルもやっていて、そういう視点もあるのかな? 「こういう曲も面白いんじゃないか?」って提案してきて。あたしは必ず最初にケチをつけるんだけどね(笑)。でも歌詞をつけて歌ってみると、いいかも! って。「CANCEL EVRYTHING」(『TOKYO DOLLS』収録)なんてちょっとミディアムなロックンロールで、このノリはあたしには合わないって思ったんだけど、歌詞をつけて歌ってみたら、なんかいいじゃん! って。曲によって歌詞も新しいイメージが沸いてきたりね。大口君と掛け合いみたいな場面がある「BODYGUARD」(『TOKYO DOLLS』収録)も、最初は、えー? って思ってたんだけど、いいじゃん! って。そしたら『TOKYO DOLLS』はああいうアルバムになったんです(笑)。凄い気に入ってます。
──NICKEYさんの表現力もグンと広がったと思う。
NICKEY:ありがとうございます。昔から一つのとこに留まりたくないって意識はあるから。ソロもやってるし、いろんな歌、幅広く歌いたいっていうのはずっとあったんです。ソロはソロ、バンドはバンドでありつつも、反映し合っていければなって。
──CROSSさんの曲、ホントいいもんね。
NICKEY:いいんですよ。どんどん良くなってる気がする。あたしに合う曲を書いてくれるし、自分では考えられない曲を持ってくるから。
“ポップに明るく元気に”という原点回帰作
──今回の「WINGLESS ANGEL」はバラード。ソロの『太陽はひとりぼっち』に入ってた「フリージア」もバラードでした。バラードを歌うようになったのもこの時期ですよね。
NICKEY:バラードはクロさん(故・黒田義之氏:NICKEYの元マネージャー)がね、「NICKEYはバラード歌ったほうがいいよ。バラードないの? ないの?」って言ってくれてて。
──へー! 黒田さんサスガ。
NICKEY:だからここ数年かな、バラードを歌うようになったのは。「MARCH ON THE STREET」(『TOKYO DOLLS』収録)もバラードってわけじゃないかもしれないけど、そういう気持ちも込めて。
──あの曲はライブハウスやストリートへの思いに溢れてグッとくる。
NICKEY:CROSSもクロさんと付き合いが長いんですよ。CROSSがバラードを作ってきたのは、クロさんが「バラードないの?」って言ってたのを知ってるからっていうのもあるかも。
──そうやって表現が広がっていって、NICKEYさんの中で意識の変化はありました? パンクロックに対する意識とか。
NICKEY:たぶんあたしは王道なパンクのスタイルが似合うタイプではないんですよ。ガーッとした声も出ないし。そうじゃなく、メロディがポップでキャッチーなものが自分には合うと思っていて。声質もこういう声だから。ちょっと暗めのマイナーな曲を歌っても、そんなに暗く聴こえないっていうのが自分では良さだと思ってる。
──ホントそう思う。暗く聴こえないっていうのが個性だと思う。
NICKEY:暗い曲はあまり好きじゃないし、暗くウゥゥーってなるのがイヤだったんです。だけど録音した自分の歌を聴いてみると、そんなに暗くない(笑)。声質や歌い方なのかもしれないけど、マイナーなメロディでもそんな暗い感じにはならないんですよ。
──性格もそうだよね。NICKEYさんって泣き言とかネガティブなことを言わないよね。
NICKEY:そんなことないよ。ただ暗くなるのがイヤなだけで。
──カラッとしてるんだよ。カラッと明るいからこそ暗いメロディも独特な輝きがある。だからNICKEYさんの性格が歌に出てるし。今回の『SOME FLOWERS』はホント、NICKEYさんらしい作品だなって。
NICKEY:あのね、ここ数年の作品、全部違うタイプで。『COLD METAL GUN』も少しダークな雰囲気があったり。Xmasの曲には効果音が入ってカラフルな仕上がりになってたり。次の宙也との「COSMIC LOVE」も効果音入れてスペーシーな感じで。そんなにコロコロ変わってきて、次はどうするんだ!? ってなって(笑)。あたしが前作よりも絶対いい曲を求めるから、正直CROSSはなかなか曲を作れなかったと思う。あたしが今回で求めたいい曲っていうのは、ここ数年WARRIORSはどんどん変化させていったし、ソロでも意外と難しい曲を歌ってきたし。歌詞も私の中では難しいというか、初めて書くような歌詞もあった。そういうことを続けてきて、今回はとにかくシンプルでキャッチーな、みんなが覚えてくれる、「すぐ覚えちゃったよ」っていう曲にしたかったんです。やっぱり10代の頃にブロンディが大好きだったから。キャッチーだから好きなんですよね。キャッチーっていうのは自分の中でずっとテーマにあって。今回もちょっと難しい方向に曲が行きそうになると、もっとわかりやすく! って何回もやり直して。歌詞も凄く単純。みんなに元気になってほしいっていうのもあるんだけど、歌詞を書いて歌ってたら、自分が元気になった(笑)。これよ! って思ったんです。凄い単純なんですよ、あたしは(笑)。ポップに明るく元気に。今回はアルバム全体もシンプルに仕上げたかった。基本に戻ったって感じかな。原点回帰。でもまた変わっていきますよ。留まっているのは苦手だから。
それぞれ違うからこそシンプルなことを忘れないように
──うん。ポップでシンプルなバンドサウンドですよね。『TOKYO DOLLS』ではピアノやキーボードがロックンロールを派手に彩ってたけど、今回のキーボードは抑制されてる感じだし。
NICKEY:エンジニアやミックスもやってくれてるキーボードの礒江さんがそのへん凄くわかってくれてる。たとえば「WINGLESS ANGEL」はもっとバーンと壮大な感じにもできたんだけど、あたしはコンパクトにしたくて。そのへんCROSSと意見が違って。あたしはライブハウスが似合う感じに仕上げたかった。で、そういう音にした。
──全体的に削ぎ落した、ちょっとザラッとした感じもした。
NICKEY:そうかもしれないです。声も横で歌ってるような、あんまり広げないで。
──タイトル曲の「SOME FLOWERS」の、“花束ひとつ世界は変わる”っていう歌詞、いいよね~。片思いから両想いになれるようなラブソングにもとれるし、一歩踏み出せば大丈夫ってふうにもとれるし…。
NICKEY:うんうん。
──あと今の社会、世界に対してのようにも。
NICKEY:うん、そうなんですよ。
──複雑な要因が絡まって、争いや戦争が起きてるけど…。
NICKEY:でも、シンブルなことがちゃんとあるはずで。
──うん。シンプルなことを忘れないでって感じにもとれるよね。
NICKEY:うん。争いが起きている国、起きてない国、いろんな国があって、いろいろな人がいて。いろんな花も咲いてる。それぞれ違うんですよ。なんていうんだろう…、それぞれ違うからこそシンプルなことを忘れないように、シンプルな思いはみんな持ってるっていう。
──うん。シンプルな感覚、シンプルな感情は大事だよね。
NICKEY:なんていうんだろう、あたしは単純だから、イヤなことがあってもちょっとしたことでパーッと明るくなる。それを花にたとえたんですけど。タイトルは、銀座を歩いてたら地下に何かの広告で「花束を君に送りたい I want to give you some flower」っていうのがあったんです。タイトルだけが決まらなかったんだけど、その広告を見たときに神のお告げみたいにコレだ! って。いろんな花があるし、いろんな人がいる。だからFLOWERにSをつけて。
──前に遠藤ミチロウさんがNICKEYさんに言った言葉が、NICKEYさんにとって道標になっているんだろうね。
NICKEY:そうですね。20代の頃、「女の子は楽しくしてないとダメなんだよ」ってミチロウさんが言ってくれて。この言葉は凄く大きいです。大切な言葉です。
──NICKEYさんの姿をライブ見てると楽しくて幸せな気分になるもん。
NICKEY:ホントですか? あたしもみんなから元気をもらえてるし、あたしもみんなに元気をあげられたらってホント思います。片方だけじゃないんですよね、ライブって。
──パンクロックでも年齢と経験を重ねていくと、なんていうか、優しさを出せるようになってますよね。
NICKEY:そうそう。優しさ、愛ですよ(笑)。そういうのは感じますよね。やっぱりお客さんが「ライブに来て良かったー。元気になりました!」って言ってくれたらとても嬉しいし、あたしも元気をもらえるし。
──2曲目の「MY TEARDROPS」もポップでキャッチーでキュート。
NICKEY:ブロンディの「デニスに夢中」っぽい(笑)。一応、胸キュンソングなんだけど、ハートを盗んできたはずなのに、アレ? どこに置いてきたっけ? 失くしちゃったかな? っていう(笑)。とぼけた感じが自分っぽいんですよ。ま、いいやって(笑)。まさにあたしなんですよ(笑)。
──NICKEYさんってあっけらかんとしたとこあるもんね(笑)。
NICKEY:そうそう。ま、いいかって、けっこういつも思う(笑)。
──マイナーな曲もそんなに暗くならないって言ってたように、カラッとしたムードが絶妙で。NICKEYさんの絶対いいとこ。
NICKEY:そう思っていただけたら嬉しいです!
作品は決して廃れないし、曲はずっと在り続ける
──そういう中で「WINGLESS ANGEL」はレクイエムような気持ちで?
NICKEY:ここ数年、センターボーカルの方が亡くなっているように思えて。追悼ソングというわけではないんですよ。リスペクトしてるから曲にしたかっただけで…。これはあたしの考えなんだけど、ボーカリストってメンバーに助けられているんだけど、けっこう背負ってるものがあって。それがプレッシャーになる人もいれば、力になっていく人もいる。私はどうなるかって聞かれると、まだわからないというか。年数ばかりいってるけど全然ペーペーなんで。ボーカリストは真ん中に立って歌うことを、なんらかの理由があって選んで、そして歌って。その理由は誰にもわからないことで。
──真ん中に立つボーカリストは、観客ともメンバーとも自分とも向き合わなきゃないというか。
NICKEY:ギタリストにもドラマーにもベーシストにも、全ての演奏家へのリスペクトはあるんです。その中でステージの真ん中に立つ人=バンドリーダーは、孤独なものだと思うんですよ。それはなった人じゃないとわからない思う。もちろんメンバーに助けられているんだけど、凄い孤独感はあるんです。真ん中に立つ人はそれぞれ孤独感を持ってると思うなぁ。あたしはたまたまボーカルになったけど、今はそれが身についてしまったというだけかな。若い頃はそんなこと考えずにやってこれたけど、今はやっぱりひしひしと感じますね。
──亡くなったミュージシャンへの曲であり、自分自身への曲であり。
NICKEY:歌い続けて亡くなられた人たちの存在は、私の中ではずっと輝き続けているわけで。“THIS IS NOT THE END”っていうふうに心の中ではずっと輝いてる。だから追悼とはちょっと違って。作品は廃れないし、曲は在り続ける。それをずっと思っていてほしいって、みんなに向けて歌ってるとこもあるんですよ。
──ああ、はい。どっぷり暗くはならないのは、輝き続けるってことを歌ってるからなんだろうね。
NICKEY:ああ、そうかもしれない。
──NICKEYさんは実はタフなんだよね。
NICKEY:タフかどうかはわからないけど…。あの、母親が亡くなったとき、凄い悲しかったんですよ。で、コーヒー飲んでちょっと落ち着こうって店に入って。そしたらバッグが売ってて、このバッグなんてカワイイの! って買っちゃったんですよ(笑)。なんなんだ? って自分で思って。なんでこんなときにバッグなんか買ってるんだろう? しかもカワイイって喜んでる(笑)。
──わかる! なんか不思議と同時にあるんだよね、悲しみも喜びも。
NICKEY:そうかも。だって凄い悲しんでたんですよ。でもバッグ買っちゃって。なんなんだ? って反省するんだけど、ま、いいかって(笑)。
──それNICKEYさんのいいとこだと思うし、曲に出てるよ。カワイイものはカワイイっていう素直な気持ちとか、“花束ひとつ世界は変わる”っていう気持ち。シンプルで素直な気持ちは忘れちゃダメだと思うし。
NICKEY:うん。自分を自然に出せるようになってきたかなって思います。落ち込んでても、この服いいなっての買ったらコロッとテンション高くなっちゃうようなとこあるから(笑)。そういうとこが自分だし、それを否定することないし。
──うん。ジャケットもいいですよねー。何人もいるNICKEYのイラストがカワイイ。
NICKEY:銀座で何かの広告を見て『SOME FLOWERS』ってタイトルに決めたときに、このジャケットのイラストがパッと浮かんだんです。数年前にフォトブックを出したんですけど、見開きにバーッとある斎藤マミさんのイラストがパッと浮かんだ。斎藤マミさんは少年ナイフなどのイラストをやられてるイラストレーターで、昔、森本美由紀さんのコミュニティカレッジに生徒さんで来ていて。そのときにモデルをやっていたあたしを描いてくれて。そこから知り合ってフォトブックのときに描いてもらって。今回、新たに描いてもらう時間が全然なくて、フォトブックのときのイラストを使わせてもらって、そこにアルバムタイトルを描いてもらって。イラストも『SOME FLOWERS』ってタイトルにバッチリ合うと思う。ただ、WARRIORSにこの可愛いイラストはどうだろう? って思ったけど、意外にメンバーから評判良くて(笑)。大口君なんか「最高じゃないですか!」って言ってました(笑)。
──最高ですね(笑)。