「長時間労働」ベトナム人技能実習生は“大歓迎”!? 日本人の“常識”覆す「失踪の真相」とは

失踪者がもっとも多い業種は「建設業」だという(keikyoto / PIXTA)

出入国在留管理庁によれば、昨年失踪した外国人技能実習生は9006人と過去2番目に多かったといいます。日本には約32万人の技能実習生がおり、“失踪率”でいえば約2.8%。これを多いと見るか少ないと見るかは、人ぞれぞれかもしれません。

失踪の原因はさまざま考えられますが、その原因は必ずしも、一般的にイメージされる「劣悪な労働環境」ではなく、「思うように稼げない」状況も大きく影響していると言われています。

技能実習をきっかけに祖国で“勝ち組”の人生を手に入れた人、失踪せざるを得ない状況におちいった人、“技能実習マネー”に群がる有象無象…。多様な立場から見つめると、日本が生み出したこの制度がいかに“複雑怪奇”であるか分かります。

第4回目は、失踪者を生み出す「お金の問題」について、技能実習制度の運用を担う「送り出し機関」「監理団体」幹部の証言をもとに紹介します。

(#5に続く)

※この記事はジャーナリスト・澤田晃宏氏による書籍『ルポ 技能実習生』(筑摩書房)より一部抜粋・構成しています。

労働時間が“短ければ短いほど”失踪者が多い

失踪を生み出しているのはお金の問題だ。それはAさんの例を見ても明らかだ。取材時にはAさんは失踪した仲間の話にも触れていた。

「入国後に一緒に講習を受けた仲間で、とび職の友人はもう失踪しています。休みが多く、手取りが6万円とかしかもらえないんです」

失踪者たちの「1週間あたりの労働時間」にも注目したい。失踪者を生み出すような実習先なのだから長時間労働がはびこっているのだろう ―― 日本人の感覚ならそう思うかもしれないが、実習生の感覚は逆だ。失踪者の調査では、最も多い労働時間は「40時間以下」(40%)で、50時間以下までが全体の約80%を占める。「60時間以上」は5%に過ぎない。労働時間が短ければ短いほど失踪者が多いのだ。

これまでも書いてきた通り、実習生の大半は技術や知識を学びに来るわけではない。お金を稼ぎにくる。日本人とは違い、長時間労働は大歓迎。休みなく働き、できるだけたくさん稼ぎたいのだ。

「残業の多い求人は人気です」

送り出し機関関係者から、何度と聞いた言葉である。

失踪者No.1は「建設業」

失踪者の割合を業界別に見ると興味深い。先述(編注:抜粋箇所外)の2017年の失踪者の調査によれば、失踪者は建設業が最も多く、全体の36%。次いで農業(17%)、繊維・衣服(10%)と続く。実習生の人気のない職種がずらりと並ぶ。この3業種に関しては失踪リスクが高く、取り扱わない監理団体も少なくない。不人気の理由をハノイの送り出し機関幹部は、こう説明する。

「建設は野外の力仕事で大変な上に、拘束時間が長い。朝、事務所で資材を積んで、現場まで車で数時間。その間の給料は出ない。農業は個人商店で、労働法を理解していない農家が多く、長時間労働や残業代の未払いなどの問題が起きやすい」

また、繊維・衣服などの縫製の仕事については、こう話す。

「社会保険や寮費を引いた手取り賃金は10万円に満たないことが多い。時給計算ではなく、出来高で払われるところも多く、長時間労働になりやすい。募集してもなかなか人が集まらず、結果として集まるのは別の求人ではなかなか採用されない30代の女性が多い」

失踪ラインは借金7000ドル

多額の借金を背負ってでも日本を目指す実習生たち。満足な給料があれば返済していくことができるが、できない、または、返済に時間がかかるとなれば、たちまち失踪のリスクが高まる。北関東のベトナム専門の監理団体の幹部はこんな話をする。

「借金の額が7000ドルを超えると失踪リスクが高まります」

その額には根拠がある。実習生が1年間働いても、返しきれない額の目安だ。最低賃金水準の賃金でも、実習生は少なくとも月額6万〜8万円程度を貯金している。最初の1か月(事前研修が修了している場合)は入国後の講習になり、実際に働けるのは11か月(講習期間の1か月目も6万程度の手当は支給される)。毎月7万円を貯金したとして、1年間では77万円。これが1年で返しきれる上限の約7000ドルということだ。

この監理団体幹部はこう話す。

「1年経っても借金が返せないとなると、プレッシャーが大きくなります。正直、実習先によって待遇は大きく変わります。残業も多く、毎月15万円以上を送金する実習生もいます。家族や友人に『なぜ、あなたは少ししかお金を送れない』などと言われると、大きなプレッシャーになっていくのです」

(第5回目に続く)

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