新テーマパーク「ジャングリア」会見で飛び出した「日本で最も貧しい沖縄の北部」発言 モヤモヤの正体を考えた【11月25日~12月1日 タイムス+プラスのみどころ】

 沖縄の名護市と今帰仁村にまたがる一帯に2025年開業予定の大型テーマパーク「JUNGLIA(ジャングリア)」の話題に沸いたこの1週間。これまで多くの情報が伏せられてきただけに、パークの名称や「気球で遊覧」「恐竜に追いかけられる」などのアトラクションがついに明らかになり、県内外のメディアで大きく報道されました。

 パークの仕掛け人、「刀」(大阪市)の森岡毅代表による記者会見の全容はこちらから。パーク構想の挫折から再起、沖縄県内の企業がこぞって出資した経緯、そして展望や課題を多角的な視点から検証する東京報道部の照屋剛志記者、経済班の川野百合子記者の連載記事はこちらから読めます。必読です。

木々に囲まれた細道を上ると、新テーマパークの工事が進む一帯に行き着く=11月30日、今帰仁村

 さて、沖縄タイムス1紙だけを見てもパークに関するさまざまな記事が出ている中、あえて今週のデジ編チョイスで立ち止まって考えたいのは会見での森岡さんの発言。

テーマパークの概要や事業の意義などについてメディアからの質問に答える森岡毅代表(中央)=27日、東京国際フォーラム(山田優介撮影)

 「沖縄の観光どころでなく、日本の観光、その先に続く日本の新しい産業構造の在り方に波及効果を及ぼすことができないかという願いのもとで、この事業を追いかけてきました。(中略)あの沖縄という場所に、このパークができることで、この場所でこれだけの規模の投資が成功することを証明することで、新しい投資がどんどん来る呼び水になる」

 「沖縄の北部、日本で最も貧しいと言われている沖縄の北部に、あの場所ならではの特徴を使った変化の起点をつくることによって、さまざまな人の笑顔を生み出すことによって、より多くの人に豊かな収入が回り、誇りを持って働ける場所ができる。これによって、さまざまな宿泊施設もできれば、他の集客施設もできるでしょう」(動画の10分あたりから)

 当該発言は、Yahoo!ニュースの主要トピックにも「沖縄に新テーマパーク 背景に貧困」の見出しで大々的に取り上げられ、コメント欄はさまざまな意見が飛び交いました。

それぞれの「モヤモヤ」の正体とは

 私自身も、沖縄で「貧困」をテーマに取材した経験のある一人。現場の実感に加え、全国最低水準の1人当たりの県民所得といった客観的数値を踏まえても、「沖縄が貧困でない」と言う気は毛頭ありません。それでも、この一言にモヤモヤとしたものを感じてしまいます。

 「沖縄タイムス+プラス」エキスパートEyeのコメンテーター、ケイスリー代表取締役の幸地正樹さんは「モヤモヤ」の正体について、こう言語化しています。

 記者会見を拝見して気になったのは、「日本で最も貧しいといわれる沖縄の北部」が「変化の起点(=大型投資が続々と集まるきっかけ)となること」が強調され、そのためにテーマパークが必要という説明だ。
 資本主義における価値基準であるお金の点でみると、貧しいように見えるかもしれない。一方、幸せかどうかを基準にした場合は全く異なるものになる。沖縄は、家族や親せき、友人や地域の関係が強く、その小さなコミュニティーが社会に溶け込み文化や習慣となっており、その社会は海や山、多様な生物がすむ自然や神事を含む伝統に守られている。
 独自の歌や踊り、食べ物や文化を含め、苦しさも楽しさもコミュニティーで分かち合い、共有し助け合う社会が今もなお残っている。日常の中で当たり前に幸せを感じている、そんな豊かな島が沖縄だと思う。
 もちろん多くの課題はある。ただ、自然を消費して、お金を出す人が望ましい形にする、資本主義の大きな課題である格差拡大や外部性などに正面から向き合わない開発は、誰が何のために行うのか。記者会見では伝えきれない事情もあったかもしれないが、沖縄県民がそういったことも考えるきっかけとなってくれればと思う。

 私自身の違和感は、幸地さんとはまた少し違うところにあります。あえて言葉にするなら、沖縄の貧困には、沖縄戦や米軍基地の存在に起因する構造的要因が大きく関わっているのに、その根本の視点が抜け落ちている違和感。それに無自覚な県外の人たちによって、新パークを盛り上げる一つのツールとして「沖縄の貧困」が表面的に消費されていくような…。

 SNSでも、多くの人が、多様な視点から、この発言への「モヤモヤ」を表明していましたね。

起爆剤になるかもしれないけれど

 パークが開業予定の名護市や今帰仁村にまたがる一帯は、マンゴーやミカン、パイナップル栽培といった農業を生業に暮らす人たちが多くいる地域です。付近にパイナップルパークやお菓子御殿といった観光施設もありますが、メインの県道84号からほんの少し離れるだけで、静かな集落や農地、森林が広がっています。

新テーマパーク開業が予定される「オリオン嵐山ゴルフ倶楽部」跡地の周辺。青い丸のあたりがパーク入口付近(googlemap)

 開業を前に、この地域で長年暮らす住民からは「既に工事段階で土日に交通渋滞が起き、開業前から住民生活に影響が出ている」との声も。パークの観光需要を見込んだ周辺の乱開発を心配する声など、これまでの暮らしが大きく変化しかねないことに根強い不安があるのも事実です。

 新パークを運営するジャパンエンターテイメントが先日公開した正社員の求人を見ると、「オペレーション企画ディレクターで基本給50万~66.6万円、年収750万~999万円」など、沖縄では破格の待遇ともいえる条件がずらりと並んでいます。パークの開業は、長年の課題だった沖縄の観光業従事者の待遇向上につながり、ひいては沖縄経済の起爆剤になるのかもしれません。

沖縄北部の新テーマパーク「JUNGLIA(ジャングリア)」の全体イメージ(画像提供:ジャパンエンターテイメント)

 ただ、忘れずにいたいのは、幸地さんの言うように、資本主義による価値観では測れない、守られ、尊重されるべき「豊かさ」がそこにあるということです。

 住民からは、パーク側に説明会を求める要望が出ているといいます。地域で長年大切に育まれてきた価値観を分かち合いながら、開業に向けて準備を進めてほしい、と切に願っています。今週の「デジ編チョイス」は篠原知恵が担当しました。

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