社説:生活保護減額訴訟 困窮の直視求めた高裁判決

 生活困窮の実態を直視した判断といえよう。

 生活保護費の基準額引き下げは憲法が保障する生存権を侵害するなどとして、愛知県内の受給者13人が、減額処分の取り消しなどを求めた訴訟の控訴審判決は、原告の逆転勝訴となった。

 名古屋高裁は、「厚生労働相は裁量権の範囲を逸脱し、重大な過失がある」として、請求を退けた一審地裁判決を取り消した。減額処分を取り消した上で、国に1人1万円の慰謝料支払いを命じた。

 全国29地裁で起こされた同種の訴訟で、賠償を命じる判決は初めてとなる。

 原告側の主張を幅広く認め、減額に苦しんだ受給者の窮状に寄り添った意義は大きい。

 厚生労働省は判決を重く受け止めねばならない。「最低限度の生活を保障する」とした憲法25条が掲げる生存権の本旨に立ち戻るべきだ。

 国は2013~15年、物価が下落したとして保護費の基準額を改定し、平均6.5%引き下げ計670億円を削減した。96%の受給世帯が対象となった。

 争点は、厚労相の引き下げ判断の妥当性である。算定では、生活保護基準額の水準と消費実態の乖離(かいり)の解消(ゆがみ調整)と、物価動向を踏まえた減額(デフレ調整)を反映させた。

 デフレ調整には総務省公表の物価指数ではなく、厚労省は独自に算定した指数を取り入れたが、判決は、実態とかけ離れていたなどとして「合理的関連性や専門的知見との整合性を欠く」と断じた。

 一連の訴訟で裁判所の判断は割れている。高裁判決2件のうち、今年4月の大阪高裁は原告の請求を退けた。一審判決22件では、京都、大津は原告が敗訴したが、過半となる12件が処分取り消しを認めている。

 とりわけ今年に入り、原告勝訴が相次ぐ。物価高が直撃する生活実態が制度に反映されていない矛盾に対し、司法の認識を一定示した形だろう。

 生活保護の基準は最低賃金をはじめ、多くの制度と連動し、広く生活に影響を及ぼすことを忘れてはならない。

 引き下げの前年、自民党は衆院選公約に保護給付水準の引き下げを掲げ、政権復帰した。

 強引な手法での引き下げに対し、一連の訴訟で最初に判決を出した名古屋地裁では請求を棄却しながらも、「自民党政策の影響があった可能性は否定できない」と認める。

 当時、不正受給問題を取り上げて受給者への過剰なバッシングが広がったことが背景にあった。だが、不正受給額は1%にも満たない。むしろ、本来は保護対象なのに制度を利用している割合(捕捉率)が低いことが問題と専門家は指摘している。

 必要な人に行き渡るよう、政府は社会の理解を広げることこそ欠かせない。

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