白神山地の象徴・クマゲラ 9年間姿見えず 気候変動、入山者増影響か

最後に白神山地で撮影されたクマゲラの写真パネルを指さす藤井さん=3日、西目屋村の白神山地ビジターセンター
2007年6月、調査で撮影されたクマゲラの親子(本州産クマゲラ研究会提供)。白神山地では14年以降、姿を消している

 世界自然遺産・白神山地のシンボル的な鳥で、国の天然記念物に指定されているクマゲラが、2014年を最後に白神で確認されていない。本州の代表的な生息地の一つである秋田県の森吉山でも17年の観測が最後。北東北3県のブナ林を毎年調査しているNPO法人本州産クマゲラ研究会の藤井忠志理事長(68)=盛岡市=は「本州のクマゲラは絶滅寸前の状況だ」と危機感を強めている。

 クマゲラは全長約45センチの日本最大のキツツキ。黒い体に赤い頭が特徴で、環境省が絶滅危惧種に指定している。生息域は現在、主に北海道で、本州では北東北のブナ林に限定される。

 藤井理事長によると、白神で確度の高い生息情報は、個体が複数人の目によって観測された14年10月が最後。撮影に成功したのは09年5月が最後で、いずれも赤石川流域の櫛石山南にある「クマゲラの森」で見つかった。白神や森吉山では1980年代以降、毎年のように繁殖が確認されていたが「ここ数年はぱったり。痕跡すら見つかっていない」と嘆く。

 白神山地を分断する青秋林道建設が進んだ80年代に初めて白神で見つかったクマゲラ。反対運動の追い風になり、大規模開発の中止、その後の世界遺産認定に結びついた。クマゲラは森を守った象徴として脚光を浴びた。なぜクマゲラは姿を消したのか。藤井理事長は近年の猛暑など気候変動の影響に加え、「人間による圧力」を理由に挙げる。

 クマゲラは警戒心が強く、世界遺産として白神の注目度が上がったことで入山者が増え、生息環境を追われた可能性が否定できないという。藤井理事長は「過去にはモラルのないカメラマンに巣穴周辺を荒らされたこともある。クマゲラにストレスを与え、繁殖が途絶えた例もある」と話す。

 同研究会は江戸時代の文献などを精査し、本州産と北海道産は津軽海峡を境にすみ分けて遺伝子をつないできた「地域個体群」とみている。そのため、本州産の絶滅は「培われた遺伝子情報の消滅につながる」と危機感を強めている。

 藤井理事長は3日、西目屋村の白神山地ビジターセンターで講演。「白神は世界遺産登録30年になるが、クマゲラが絶滅すれば、ほかの動植物が影響を受けることになる」と力を込めた。

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