安芸高田市議会を題材に大学で授業「色々変えようとしても通らない絶望感」

広島県北部に位置する安芸高田市。人口がわずか2万6千人の町の議会が全国的に注目を集めている。その理由は、石丸伸二市長(41)とベテラン議員の議論が「おもしろい」からだ。事前の根回しを「害悪」という市長と、事前に説明が欲しいという議員たち。

その根回しのない議論の様子が、大学の授業で取り扱われている。

■「本音で話す議会は面白い」学生からは肯定的な意見が相次ぐ

関西学院大学総合政策学部の地方自治論の講義。約200人の学生が視聴しているのは、「市長と議員のガチンコ勝負」と題された報道特集の動画。講師は関西学院大学の非常勤講師の戸田香先生。戸田先生は、関西のテレビ局で報道などに携わり、現在は政治学を専門に京都女子大で助教を務めている。「(有権者から)議員も選ばれるし、首長も選ばれるという地方政治の二元代表制の色々な論点が多かったので、興味深いと思って事例として取り上げました」と、題材にした理由を話す。

学生の興味が集まったのは、石丸市長の「「建設的であり生産的でないとダメなんですよね。議論というのはそのためにやるので、真剣勝負に僕はいつも徹しています。 やらせとか根回しみたいなのは、不要というか僕は悪だと思っています、 害悪だと思っています」という発言の部分。安芸高田市議会では事前の調整を行わず、公の場で議論を行っている。例えば、地元高校の存続の議論。児玉史則議員から「ふるさと納税を活用すべき」という質問があった。「家賃補助で入学者が増える」「高校OBらに声がけしやすい」という提案がされたが、執行部(市長側)は「高校は教育内容で選択され、充実のための予算枠組みを準備中。愛校心があるなら、寄付の方がロスが少ない」という回答をした。このように筋書きのない論戦になることもしばしばだ。

「根回しがあるのが通例かなって思っていたので、本音で話しているのが面白いなと思いました」

「議論の質を上げるというのは、議論するうえで一番大事なことなんじゃないかなと思うので、いいことしてるなと思います」。

と、学生からは肯定的な意見が相次いだ。

■「“根回し”、絶対に悪いとは思わない」

一方、戸田先生は「一般社会でもキーパーソンみたいなところには、ある程度丁寧に説明して合意をとる作業をするじゃないですか。それを根回しという風に言われるのであれば、私は必ずしも絶対に悪いとは思わないですね」。議論の過程で「根回し」は否定しないものの、最重要視するのはその後。「政治とか地方政治もそうなんですけど、不信を招かれるのは決めていく過程がわかりにくいし、何をやっているかよくわからない。で、いきなり結論だけが出てくるというのは、これは市民にとってみてもすごく不信を招きますよね。根回しをしたとしても、執行部側はちゃんとそれをメモにとって情報公開対象として記録に残しておくっていうことですよね」

■続く市長提案の政策の否決…2元代表制だからこそ住民の監視が不可欠

講義では議会の情報公開についても触れられた。安芸高田市議会では、議会の模様をYouTubeで中継しているが、山本数博議員が自信の過去の質問を編集した「切り抜き動画」について「殺人」などの言葉を含む、誹謗中傷を受けたとし、一般質問を取り下げるという事態になった。また、全議員に質問権がある一般質問だが、このときに質問に立ったのは半分の8人のみだった。これには学生からは厳しい声が上がった。

「しっかり準備して望んでいる議員の人もいるけれど、一方で発言を控える議員もいるので、そういう人たちは何をしているのかと思った」

「質問を避けたというのは、それが本当に市民のためなのか。市民のためにしているならもう少しちゃんと質問してほしい」

これまで「公募の副市長案」や道の駅への「無印良品」出店計画など市長提案の政策の否決が続いている安芸高田市議会。議会が否決した公募の副市長案については、市民が賛成を求める署名活動も行われた。戸田先生は、市長と議員がどちらも住民から選ばれる2元代表制だからこそ、住民の監視が不可欠だという。

■若者の政治離れ

前回の安芸高田市議会選挙の、年代別の投票率をみると60,70代は約80%あるが20代の投票率は31%。その差は一目瞭然だ。若者が多く使うSNSで、政策や議会の内情を発言する石丸市長の手法。これには学生も「こういう議会で色々変えようとしてくれる人が現れても、それが通らないという絶望感が若者にはあると思っています。それでも投票に行っても何も変わらないんだっていう思いがあります。なので、ここで何か変わったらまた一つずつ動き出すんじゃないかと思います」。と、本音がこぼれた。

戸田先生も「おじさんがよくわからない暗闇みたいなところで、物事を決めているんだと有権者にとられていたら、そんなところに誰が関心がありますか。そこで若者ばかりを責められません。そこを変えていくうえでは女性議員を増やすということも1つだと思います」と、現状を分析した。

市長与党が形成されがちで、議案の否決が少ない地方議会。全国的な「提出議案の数」を見ても2022年の1年間に市長が提案した条例案は約2万6千件。一方、議員が提案したものは839件と市長提案のわずか3%。

戸田先生は地方議会のあるべき姿について

「二元代表制なので、地方議会は執行機関と競争であるべきなんです。どちらがより政策を提案するか。ガンガン提案して、私たち(議員提案)の方が良い提案なんだということでそれを通していくのが地方議会の1つのパワーでやるべきことだと思います。」と、提言した。

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