戦地訪れ修論に 長崎大大学院生・渡邉さん “世界最大の難問”と向き合う

今年1~2月に通っていたテルアビブ大の正門前で行われていたデモ。左が反イスラエル側、右が親イスラエル側(渡邉さん提供)

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃開始から7日で2カ月。先月末、一時休戦したが、1日に再開し終結は見通せない。
 「イスラエルを批判する研究をしているけど、パレスチナ側を支持するわけではない」。複雑多岐にわたる問題に向き合う若者がいる。長崎大大学院多文化社会学研究科博士前期課程2年の渡邉優樹さん(24)。自身の研究が世界平和に役立つ日が来ることを願って-。
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 大阪府阪南市出身。中東問題との出合いは中学3年の時。中高一貫のミッションスクールで受けた宗教の授業だった。イスラエルとパレスチナの紛争跡地を映したドキュメンタリーを見て自身の無知を恥じた。「自分は朝起きて、ご飯を食べて寝ているのに、生存権が脅かされている中東の人たちがいる」
 2018年春、長崎大多文化社会学部に入学。刑事法やアジア法が専門の河村有教准教授に師事した。イスラエルとハマスの間で続く攻撃の応酬をあらためて知り、さらに研究を深めたくて同大大学院に進んだ。
 学部の卒業論文テーマは、今まさに衝突が続くヨルダン川西岸地区でのイスラエルの入植行為。国際法に基づき違法性を研究した。現在は修士論文を執筆中。イスラエルには憲法がなく、国内の最高法規とされる「イスラエル基本法」を手掛かりに、ヨルダン川西岸地区での住居破壊の違法性を考えている。
 今年1月から2月にかけて、イスラエルのテルアビブ大のヘブライ語短期集中学習コースを受講。裁判事例などを集め、エルサレムやパレスチナを回った。出会った同年代の学生たちにこの問題を尋ねると、こんな答えが返ってきた。「双方に主権国家を認める」「統合して一つの国家で運営すべきだ」-。イスラエル、ハマスそれぞれを支持する声があった。当然だと悟りつつ、「真の和平は一筋縄ではいかない」。
 2千年以上も確執を抱え、“世界最大の難問”と呼ばれるテーマを前に、無力感を覚えないのかと、尋ねてみた。「手っ取り早く解決策が見いだせない、途方もない問題だからこそ、研究する意義があるんじゃないか」

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