「河川敷での経済活動に法律的問題は?」“野食ハンター”茸本朗ד太公望”弁護士、界隈とコンプライアンスを語る

同世代だという野食ハンター茸本朗さん(左)と釣り好きの藤井啓太弁護士(撮影:大槻志穂)

「え、それ食べちゃうの?」――

身近に住む生き物や野草、キノコなどを次々に調理し、味わい尽くす野食ハンターにして登録者数20万人越えの人気YouTuberである茸本朗(たけもと あきら)さん。時に危なかっしいものでも体を張って食べる彼だが、未開拓の分野だからこそ、野食時のルールやマナーには人一倍気をつけているという。

そんな彼の動画や著書を熱烈に愛するのが藤井啓太弁護士だ。自らも主にヘチ釣りを楽しんでいるという藤井弁護士からのラブコールで実現した今回の対談。

禁止エリアでの採取や密漁などSNSで炎上することも多い“野食”界隈の「コンプライアンス」について語り合ってもらうと、2人の会話は自然と茸本さんが活動のなかで抱いた法解釈のモヤモヤを藤井弁護士に相談する流れになった。

「河川敷での経済活動」は法律的にグレーゾーン!?

藤井啓太弁護士(以下、藤井):もともと釣りが好きなこともあって茸本さんのYouTubeなどを見るようになったんですが、茸本さんの話は頭にスッと入ってくるんですよね。幅広いジャンルを扱っている上に知識に裏打ちされていて、事前の下調べもすごく丁寧で。動画を見て、自分の知見にもさせていただいてます。

茸本朗(以下、茸本):特定のジャンルに深い知識を持っている方がたくさんいるので、自然と広く浅くなったころもあるんですが、この界隈では採取にあたっての法律を一番気にしてる人間だと自負しています。ですから、今回、コンプライアンスをテーマにした対談の相手に指名していただいて光栄です。

早速ですがお聞きしてみたいことがありまして…。僕は河川敷でハントや野草採取をすることがすごく多いんですね。というのも、河川敷は私的利用の採取は大丈夫という話になっているからです。ただ、河川敷では経済活動はダメだとも聞いたことがあって、僕のやってることは遠回りですけどYouTubeの撮影をして収益を得ているわけで、これってどうなんでしょう?

河川敷での“YouTube撮影”は法的にOK?(撮影:大槻志穂)

藤井:ダメだと言われることは、まずないと思います。一般に、河川では、公共の利益や他人の活動を妨げない限りにおいて、自由に使用できることが原則であることとされています。河川の使用や管理について定めた法律である河川法の制定時、YouTubeはなかったですけど、昔から河川敷を舞台にしてお金にするものはいくらでもありましたから。多摩川の河川敷も、ミュージックビデオとかにしょっちゅう出てましたよね。

茸本:たしかに。カラオケの映像とかでもよく見ます!

藤井:そうそう、だから撮影で使うくらいなら大丈夫ではないでしょうか。野菜を勝手に育てて、それを売ったりした場合、土地の占用や土地の掘削といった、法律上許可を得るべき行為に当たる可能性があります。あとは、YouTuberが大挙して河川敷に押しかけて何かやりだしたような場合には、迷惑行為として問題になるかもしれません。

茸本:安心しました。もし「問題あり」と言われたらどうしようかと(笑)。YouTubeってよくない評価をたくさん受けたり、クレームが来たりすると、チャンネルがBAN(バン)されてしまうんですね(※編集部注:アカウントが停止されること)。

だから僕のチャンネルでは法律を守ってることを前面に打ち出してますし、実際に釣りや潮干狩りの動画を撮る時であれば地域ごとの漁業権等を必ず確認するとかかなり気を付けているんですけど、世の中の人はこうしたルールをどこまで知ってるのかなと感じることもあります。

藤井:たしかに、漁業権は、「一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利」ですので、これを侵害する一般人の採集行為は、漁業法違反になります。ご指摘の通り、釣り人全員がこのようなルールを理解したうえで釣りをしているかというのは、けっこう怪しいところですよね。釣具店に並んでいる道具にしても、どこでも使えるわけではないですし、その道具が禁止されているエリアで売られていることもありますしね。

茸本:野食初心者の方には、違反者にならず楽しむためにも、基本的なルールは知っておいてほしいんですよね。最初から100%理解するのは難しいですけど、どこで何を採るのかを決めたら、その地域の漁業権の設定を確認するとか、漁業調整規則を読んでみるとか。何をやっていいのか、ダメなのか、調べることが大切だと思います。

藤井:そうですね、漁業権は海や河川での採集で問題になりますが、これに限らずキノコ狩りでも雑草を食べるにしても、まずは皆さん、「やっていいのか」と一度踏みとどまって考えていただく必要はありますね。

“毒入り”は「ナマコ類」にあらず? ユーチューバーの法的解釈の妥当性

茸本:でも、実は調べてもルールの解釈がわからないことも結構あるんですよ。

毒を持つ「ニセクロナマコ」というナマコを捕って、毒抜きをして食べる動画を1年半ぐらい前に公開したんですが、撮影前に調べたら「ナマコ類」は悪質な密漁対策として特定水産動植物に規定されて基本的に採捕禁止だった(改正漁業法)。でも、「ニセクロナマコ」は毒があって絶対に食用にはされないはず…。果たして、特定水産動植物の「ナマコ類」に該当するのかがわからず、神奈川県にメールで問い合わせたんです。

そしたら、担当の方から『改正漁業法の趣旨としては、ナマコを捕ることで漁業者に経済的な損失を与えてしまうと良くないのでこういう規定があります』といった返事が来た。それで、「ニセクロナマコ」は経済種ではないから問題ないだろうと解釈して動画を撮ったんです。

現在では「ニセクロナマコ」も「ナマコ類」に入るという見解になったみたいで、神奈川県のホームページにも補足文が追加されたんですが、動画をあげた時点では補足分は掲載されていませんでしたし、当時の僕の解釈は間違ってないと思うので、今も動画を公開しているんです。僕の捉え方は弁護士から見て問題ないでしょうか。

藤井:茸本さんのなされた条文の解釈というのは、まさに法律家の専門領域でもあります。法律を国語的(文法的)に解釈するだけでなく、法制定の沿革・意義・目的を重要視されている。これは、法の「目的」を考えて、通常の意味よりも狭く捉える、「縮小解釈」と言われるものにあたります。論理的にありうる一つの帰結だと思いますね。

もっともこの話は、これまで誰も考えてこなかった問題、新しい局面で、“限界事例”といってよいと思います。法令の最終的な解釈は司法権を有する裁判所が行うものではありますが、裁判所はトラブルが起こって裁判にならないと回答してくれません(笑)。

茸本さんは事前に神奈川県に問い合わせをして返事をもらっている。一定の判断権者から回答があったわけで、さしあたりこれくらいのことをやっておくのが賢明かと思います。

茸本:そう言っていただけるとこれまた安心です。でも、もし訴えられて、万が一有罪になっても、判例が残せるのなら“おいしい”かなという思いもあるんです。

“多摩川”が流れる神奈川県を主な舞台として活躍する2人(撮影:大槻志穂)

法が規定しきれない“野食”の魅力

藤井:茸本さんらしいチャレンジャーな姿勢ですね(笑)。野食や釣りの最大の魅力は、自分で行ける身近な場所で何かを捕る、それを食べてみるっていう“チャレンジ”にあると思うんです。コンプライアンスが厳しくなってきていますが、この魅力はやってみせないことには伝わらないですよね。身近なところから始まるから、見る人も自分のこととして捉えられるわけで。

茸本:そうですね。とはいえ、コンプライアンスで縛ろうとする側、YouTubeのコメントでツッコミを入れてくるような人の気持ちもすごくわかるんですよ。野食って先ほどのナマコの話のように法が規定しきれていない部分もいっぱいありますからね。“実際どこまでOKでどこからダメなのか”みたいな話もみんなでしたいなと思ってるんです。

今後は僕が自己責任で「法的に正しい」と判断して、ファーストペンギンとして食べて、捕まって、裁判に発展して…という動画のネタが増えていくこともあり得るかもしれないですね。

藤井:社会派YouTuberに転身ですね。

茸本:もちろん、一般の皆さんはすでに規定されている部分で十分野食を楽しめると思いますので、すでにあるルールをきちんと調べて、守って楽しんでいただきたいです。法律があいまいな部分は僕みたいなヤンチャな人が自己責任で突っ込んでいきますので、マネはしないで見守っていただければと。そして僕はいざとなったら藤井先生に弁護していただこうと思いますので、ひとつよろしくお願いいたします。

藤井:はい、そのときは連絡をいただければ。でも、茸本さんと一緒ならまずは裁判所より釣りや野食に行きたいですね(笑)。

「次は一緒に釣りに行きましょう」「ぜひ」(撮影:大槻志穂)

■茸本朗(たけもと あきら)
野食ハンター、YouTuber、ブロガー。岡山県生まれ。幼少時より図鑑を読んで育ち、自然と「野外の食べられる生き物」に興味を持つようになる。10歳時より釣りに親しみ、釣魚を調理するための出刃包丁を買い与えられたことで野食の道に入る。大学卒業後、会社員、塾講師を経て野食ブロガーとしてデビューし、いまはYouTubeを主体に活動中。書籍、メディア出演多数。

■藤井啓太(ふじい けいた)
弁護士。実家が海まで自転車で10分の立地に恵まれていたことから、幼少期より釣りの楽しさに目覚める。弁護士登録後も余念なく取り組み、釣果のためなら夜討ち朝駆けも厭わない。大物狙いの釣行とは打って変わって、業務では「事件に大きいも小さいもない」をモットーに、一般の人々が陥った身近な法律問題を数多く手掛がける。

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