2022年度のバス会社の業績 コロナ禍前に近づく バス会社の7割弱が増収も、約3割が赤字計上

2022年度の全国「バス事業会社」業績動向調査

コロナ禍で打撃を受けたバス事業会社(以下バス会社)1,085社の売上高が、 2022年度(2022年4月‐2023年3月)は3年ぶりに1兆円を超えたことがわかった。ただ、バス会社66.9%が増収だったが、コストアップで33.3%が最終赤字に陥っており、厳しい事業環境から抜け出すまでには至っていない。

2022年は、春の行動制限の全面解除で国内旅行が復活し、同年10月以降は訪日観光客の入国制限緩和で海外からの観光客の利用も回復した。その一方で、バス業界の人手不足は深刻さを増し、バス・乗用自動車などを含む「自動車運転従事者」の10月の新規求人倍率は3.82倍と、2022年6月から17カ月連続で3倍を上回る高水準にある。
交通手段をバスに依存する地方では、免許を持たない高齢者や子供を中心に、生活に不可欠な交通インフラとして重要な役割をバスが担う。運転手不足や不採算などを理由に、路線バスや高速バスの減便や廃止も検討されるなか、バス会社を取り巻く事業環境は日に日に深刻化している。

日本バス協会の調査によると、満60歳以上の運転手は判明するだけで2万514人(2021年7月)で、運転手全体の23.4%を占める。若手運転手が不足する一方で、60歳以上の運転手への依存度は年々上昇し、今後もこの傾向は進みそうだ。海外からの観光客は増えてきたが、運転手不足や待遇改善のための人件費上昇、少子高齢化や地方路線の衰退、燃料高など、業界を取り巻く課題は複雑化している。バス会社の経営環境は、今後さらに不透明感を増すだけに、業界と自治体、そして利用者を巻き込んだ課題解決への動きが急務になっている。

※ 本調査は、観光バス、路線バスを主力事業とする「バス事業会社」を対象に、2022年度(2022年4月~2023年3月期)を最新期として、過去5期の業績を分析した。


2022年度は3期ぶり黒字、売上高合計はコロナ禍前に届かず

全国のバス事業会社1,085社の2022年度の売上合計は1兆154億5,700万円(前年度比15.9%増)で大幅な増収となった。ただ、コロナ禍前の2019年度(1兆2,121億1,900万円)、2018年度(1兆928億7,000万円)には届かなかった。
2022年3月以降、全国で行動制限が解除された。観光地や観光バス内の感染防止対策の緩和で、座席を間引きした運行体制も元に戻った。2023年度は2022年度以上の座席稼働率が見込まれ、大手事業者を中心に、増収を見込む企業は多い。
利益は2018年度の381億3,500万円をピークに、コロナ禍で大幅な稼働低下が続いたため、2020年度(1,269億9,600万円の赤字)、2021年度(468億5,500万円の赤字)と2年連続で赤字に陥った。2022年度は322億400万円の黒字に転換し、コロナ禍前の水準まで回復した。だが、その一方で、長期化するエネルギー価格の高騰や観光客の増加に伴う運転手不足で、深刻な事態を招いており、コスト負担が利益に影響しそうだ。

【売上高別】「1億円未満」が4割超を占める コロナ禍で121社が売上高1億円を割り込む

バス会社1,085社の2022年度の売上高別は、「1億円未満」が484社(構成比44.6%)で、半数近くを占めた。
2022年度の売上高1億円未満の企業のうち、2019年度に売上高1億円以上を計上していた事業者は121社(同25.0%)で、「1億円未満」の4分の1を占めた。中小のバス事業者は、大手と比べ需要回復期にも業容拡大が難しいことから、コロナ禍前の売上回復には時間を要しそうだ。

【増減収別】需要増から「増収」が6割超、減収は1割未満にとどまる

2021年度は、増収企業が47.2%と約半数を占めた。一方で、減収企業も31.3%と二極化が進んだ。需要が落ち込んだ2020年度からの回復は企業によりばらつきが広がった。
2022年度は、増収企業が66.9%と大幅に増えた。行動制限の解除で観光需要が伸びたほか、修学旅行などの学校行事がコロナ以前の水準まで回復したことも後押しして、減収は9.6%と1割未満にとどまった。

【利益別】2022年度は6割超が黒字、今後は赤字拡大も懸念

利益別では、2020年度にバス会社の74.1%が赤字を計上した。2020年4月以降、度重なる緊急事態宣言の発令で外出需要は消失した。特に、観光利用が消失し、従業員解雇やバスの売却を余儀なくされた中小事業者も一部ではみられた。
2021年度は、近距離の観光利用が徐々に再開し、業況は緩やかに回復したことから赤字企業の割合は縮小した。
2022年度は、赤字企業の割合は33.3%まで減少した。ただ、2023年度は人材確保に伴う人件費の増加や燃料高騰の影響などで、赤字幅は再び拡大する可能性も強まっている。


2022年度の全国のバス会社は、事業者の66.9%が増収、66.6%が黒字を計上し、コロナ禍からの本格的な回復に転じた。訪日外客数は2023年10月に2019年同月比を0.8%上回る251万6,500人まで増加し、コロナ禍以降で初めて2019年の同月を上回った。経済活動の再開で、訪日観光客や国内旅行などの需要も高まり、足もとのバス利用の機運は高まっている。

コロナ禍当初は、急速な需要消失から、中小など一部のバス会社では人員削減も散見された。一方、需要の急回復に伴い、2022年以降は運転手不足が中小、大手問わず深刻化。2023年10月の自動車運転従事者の新規求人倍率は3.82倍と高い水準を示す。定期路線バスでは若手の人材確保に加え、燃料価格の高止まり、不採算路線の見直しといった問題も山積する。
需要回復の動きが加速する一方で、コスト負担増は避けられず、再び赤字に転落する事業者が増える懸念も高まっている。

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