【どうする家康】鬼神キャラに変貌、家康に残る白兎の心とは

古沢良太脚本・松本潤主演で、徳川家康の選択だらけの人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。12月3日放送の第46回『大坂の陣』では、14年ぶりの大戦となる「大坂冬の陣」が開戦。戦のない未来のために、非情な判断をくだしていく家康の姿に、SNSは悲痛な声が相次いだ(以下、ネタバレあり)。

『どうする家康』第46回より、豊臣家との大戦「大坂の陣」に臨む徳川家康(松本潤)(C)NHK

■ どうする家康、戦の道を選び総大将に

家康を挑発するため、方広寺の鐘銘に家康を呪うような文字を刻んだ豊臣家。これを捨て置いても戦に持ち込んでも、どちらも徳川家にとって不利となる挑発だった。戦の道を選んだ家康は、現将軍職の息子・秀忠(森崎ウィン)ではなく、この戦で付く徳川の汚名をすべて引き受け「信長や秀吉と同じ地獄を背負い、あの世へ行く」ため、あえて総大将となる。

徳川方は大坂方の2倍の戦力で臨んだが、真田信繁(日向亘)をはじめとする往年の猛将たちの活躍もあり、膠着状態に。そこで家康は、外国から輸入した最新の大筒で、大阪城への砲撃を開始する。「こんなの戦ではない」と泣いて止める秀忠に向かい、家康は「これが戦じゃ。この世で最も愚かで醜い、人の所業じゃ」と言い聞かせるのだった・・・。

■ 「戦なら任せろ」でなく罪を背負った家康

豊臣から天下をかすめ取っただけでなく、難癖をつけて妻子ともども葬った・・・歴史上の偉人のなかでも、徳川家康の評判がいまいち芳しくないのは、この晩節を汚す形になった「大坂の陣」に大きな理由があるのは間違いない。この46回では戦の描写だけでなく、戦なき世の総仕上げとしてどうしても挙兵せざるを得なかった事情や、そのために心を修羅に近づけていく家康の悲しい覚悟がじっくりと描かれた。

『どうする家康』第46回より、娘・千姫を心配する江(マイコ)から総大将になるよう勧められる秀忠(森崎ウィン)(C)NHK

豊臣方の執拗な「戦しようぜ!」の挑発に、諦めのような気持ちで戦を決めた徳川家。しかしそこで将軍の秀忠ではなく、隠居の身である家康が総大将になったのは「戦なら俺に任せろ」みたいなことだったのか? と思っていた。しかし『どう家』の家康は、この戦で徳川が悪者になるのは避けられないのを見越した上で、その罪を秀忠ではなく、すでに汚れた身である自分ひとりが背負うという、自己犠牲ゆえに総大将になったという描写がなされた。

この覚悟にSNSは、「おお、三英傑の地獄のバトンリレーだったのか。アンカーが家康。地獄を終わらせる役目だと!」「戦を知らない秀忠に王道を託して、家康は最後の役目と覇道へ。はぁ、せつない」という感嘆と同時に、昨年の大河『鎌倉殿の13人』の主人公・北条義時に続き、父が息子のために地獄行きを覚悟するという展開に「そんなどこかの鎌倉殿みたいな」「NHKは2年連続で地獄を見せていくスタイル」という声もあった。

■ 信長や信玄を彷彿とさせる鬼神キャラに変貌

そうして始まった「大坂の陣」だが、戦の行方を楽観視した秀忠くんの予想も虚しく、豊臣方は全然和睦に応じないし、真田信繁(幸村)が守る「真田丸」では結構な死傷者が出る始末。この真田丸が出た瞬間、SNSは「真田丸うおおおおお」「みんな大好き真田丸!」と大興奮状態になったが「真田丸の奮闘によって大勢の戦死者が出たことで、家康は大筒の実戦投入を決意するのか。戦争の皮肉なジレンマ」という冷静な意見も。

『どうする家康』第46回より、出陣前の真田信繁(日向亘)(C)NHK

そして家康が早期決着を狙って、最新鋭の大砲をぶっ放すと、一転して重苦しいムードに。まず秀忠が泣きながら父を止めようとするシーンでは、あの「長篠・設楽原の戦い」で銃撃戦を初体験した家康&長男・信康を思い出して「秀忠が家康にくってかかる。あれはかつての家康が、鉄砲で大量に殺戮していく信長にくってかかったのと同じ」「一方的な戦い方に泣いた家康が、今度は自分が戦争を終わらせるために一方的に虐殺する側になって秀忠が泣くの、あまりにも円環の理」などの、因果に感じ入るような言葉が。

さらに、わざと血も涙もない姿を見せて「これが戦じゃ」と秀忠に言い聞かせるに至っては「犠牲を少なくするために飛び道具を使う。それはこの世で一番醜い所業。家康はそれを悟っていてもするほかない」「一番長く、多くの戦を見てきた家康が言うからこその重み。そして、そこまでをせねば豊臣は止まらぬと、覚悟を決めている証」「これで秀忠は、絶対戦は嫌でござりまするマンになるよね。そして太平の世を築いていくのよ」などの言葉が並んだ。

『どうする家康』第46回より、大坂の陣にて大筒の使用を指示する家康(松本潤)(C)NHK

戦は嫌いだし、国やお家よりも家族を大事に思っていた家康が、織田信長や武田信玄を彷彿とさせる鬼神キャラに変貌。それは息子たちの未来のために自らを犠牲にする父の愛であると同時に、こんなにやさしい人も強い使命感を背負えば、もっとも残忍な殺戮者にもなりうるという、悲しい真理の現れのようでもある。あのひたすら綴られた「南無阿弥陀佛」の文字は、口ではそう言っても地獄行きを恐れ、大勢の死者を悼もうとする、家康の「白兎の心」の現れだと思いたい。

なお12月6日放送の『歴史探偵』(夜10時・NHKプラスでも見逃し配信あり)では、今回出てきた最強の要塞「真田丸」をヴァーチャルで体験する回となる。どうしたって攻め入るのは不可能と言われた、その鉄壁の守りとすさまじい攻撃ぶりは、知らない人は口ポカンとなるのは確実なので、よかったらチェックしてほしい。

『どうする家康』はNHK総合で日曜・夜8時から、BS・BSP4Kは夕方6時から。BSP4Kは昼12時15分に先行放送あり。12月10日放送の第47回『乱世の亡霊』では、徳川と豊臣の間で、大坂城の堀を埋める条件で和議が成立。しかし乱世を望む人たちによって、再び両家の間に暗雲が立ち込めていく姿が描かれる。

文/吉永美和子

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